雑記

時間があるときに細胞検査士の筆記試験の過去問を解いています

平成25年度 胸腹水・その他 筆記試験 過去問

胸腹水・その他の過去問です。出題される範囲は体腔液、乳腺、甲状腺、泌尿器、脳腫瘍、骨・軟部腫瘍、皮膚腫瘍、血液・リンパ節腫瘍と盛りだくさんな分野です。なんか嫌になりますね(笑)


1. 正しいものはどれですか。(3)
A. 未分化大細胞リンパ腫はCD30陽性である。
B. 濾胞性リンパ腫はCD20陽性である。
C. 濾胞性リンパ腫はbcl-2が陽性を示す。
D. マントル細胞リンパ腫はサイクリンD1陰性である。
E. バーキットリンパ腫はCD3陽性である。


正解:ABC

解説:

未分化大細胞リンパ腫Anaplastic Large Cell Lymphoma(ALCL)は30歳以下の発症例が多く、予後は比較的よい。リンパ節以外に、ときに皮膚などの節外からも発症する。若年者に発症し、平均25歳で中間値21歳である。治療反応性は良く、一般に予後は良い。ALKが診断の決め手となり、CD30、T細胞関連抗原、上皮膜抗原Epithelial Membrane Antigens(EMA)、Granzyme B、TIA1が高率に陽性を示す。CD56陽性例は予後不良で、CD15、Epstein-Barr Virusは検出されない。ALK陰性ALCLの本態は多様で、予後不良であるため、診断には注意が必要である。

よってAは○。

濾胞性リンパ腫follicular lymphomaの腫瘍細胞はリンパ濾胞胚中心細胞由来の腫瘍とみなされている。腫瘍細胞は濾胞性結節を形成しながら増殖し、腫瘍細胞の大きさと割合によってgrade 1~3に分けられる。濾胞性リンパ腫はしばしばt(14;18)(q32;q21)転座の染色体異常に基づくbcl-2タンパクの過剰発現がみられる。このbcl-2タンパクはアポトーシスを制御する機能を有していることから、濾胞性リンパ腫の発生に関与していると考えられている。免疫表現型ではB細胞性マーカーのほかにCD10陽性を示すことが多い。しばしば末梢血液や骨髄中に腫瘍細胞が出現する。

よってBとCは○。

マントル細胞リンパ腫mantle cell lymphomaはリンパ濾胞のマントル層B細胞由来の腫瘍とみなされ、中型の腫瘍細胞がびまん性あるいは結節性に増殖する。t(11;14)(q13;q32)転座の染色体異常に基づくcyclin D1タンパクの過剰発現がみられる。cyclin D1は細胞周期にかかわるタンパクで、その過剰発現はマントル細胞リンパ腫の発生に関与している。免疫表現型の特徴はCD5およびcyclin D1陽性を示すことである。しばしば白血化や骨髄浸潤を来たし、治療に抵抗性で予後は比較的不良である。中等度悪性リンパ腫である。

マントル細胞リンパ腫はサイクリンD1陽性です。よってDは×。

CD3にはγ、δ、ε、ζ(CD247)の各鎖があり、γεまたはδεのヘテロダイマーがT細胞抗原レセプター(TCR)αおよびβ鎖と結合してTCR-CD3複合体を形成する。 CD3と呼ばれる市販抗体はε鎖を認識するものが通常多い。

バーキットリンパ腫はB細胞性リンパ腫です。CD3はT細胞のマーカーなのでバーキットリンパ腫では陰性となります。よってEは×。



2. 脳腫瘍について正しいものはどれですか。(3)
A. 膠芽腫は最も悪性度が高い。
B. 髄芽腫の好発部位は小脳である。
C. 髄膜腫は中年女性に好発する。
D. 上衣腫の好発部位は大脳皮質である。
E. WHOのGrade分類は3段階である。


正解:ABC

解説:

膠芽腫glioblastomaは膠腫の30~40%を占め、40~60代の大脳半球(特に前頭葉と側頭葉)に好発する。肉眼的に出血、壊死が著明でそのため多彩色調を示す。組織学的には大小不同性、多形性の著明な異形細胞の密な増殖よりなり、多核の巨細胞も多数出現する。核分裂像も目立つ。短紡錘形の腫瘍細胞が壊死巣を取り囲んで柵状に配列する偽柵状配列(pseudopalisading pattern)や、血管の増殖、血管内皮細胞の腫大・増生は本腫瘍に特徴的な所見である。

膠芽腫はGrade4に分類されており予後不良です。よってAは○。

髄芽腫medulloblastomaは神経上皮性腫瘍の5~10%を占め、6~10歳の小児に好発する。発生部位は低年齢児では小脳虫部、年長児および成人では小脳半球に偏在するのもが多い。組織学的には濃染する円形ないし楕円形の核をもつ小型の細胞がびまん性に増殖し、高い密度を示している。ところによって短紡錘形の腫瘍細胞が細胞質突起からなる小野を放射状に囲むHomer-Wright型偽ロゼットが形成される。

よってBは○。

髄膜腫meningiomaは髄膜に発生する良性腫瘍で、頭蓋内腫瘍としては膠腫に次いで多くみられ、脊髄でもシュワン細胞腫と並んで頻度が高い。中年もしくはそれ以後に発生し、大脳鎌、傍矢状部、大脳円蓋部などに好発する。腫瘍は淡赤色で半球状の硬い結節を作り、硬膜内面に強く癒着する。組織学的に髄膜皮型、線維型、移行型、砂粒腫型など多数の亜型に分類されている。髄膜皮型は境界不明瞭な細胞の合胞状、充実性の細胞巣からなり、線維型は細長い紡錘形細胞が主体をなす。移行型は前2者の混在したもので、毛細血管の周囲に同心円状の渦巻を形成する傾向がある。砂粒小体psammoma bodyの出現が著明にみられるものは砂粒腫型と呼ばれている。

よってCは○。

上衣腫ependymomaは、膠腫の5~6%で小児期に多く見られ、好発部位は第四脳室底部、脊髄、側脳室、第三脳室の順である。組織学的には腫瘍は脳室を取り囲む上衣細胞の形態と配列を模倣し、血管周囲偽ロゼット、およびときには真性ロゼットが認められる。

上衣腫の好発部位は脳室です。よってDは×。

原発性脳腫瘍の臨床的悪性度は腫瘍の組織形態や生物学的特性(増殖能、浸潤能など)とともに発生部位によっても大きく異なる。WHO国際腫瘍組織分類委員会による悪性度分類(grading)は腫瘍構成細胞の多形成、核分裂像、血管の過形成、壊死の有無といった組織学的所見と予測される生存期間との両者を併せた総合的な悪性度である。すなわち脳腫瘍を比較的良性のgrade 1から最も悪性なgrade 4の4段階に分けている。予後予測をGⅠでは長期生存、GⅡは5年以上、GⅢは2~3年、GⅣは1年未満の生存期間と対応させている。

Grade1
・毛様細胞性星細胞腫pilocytic astrocytoma
・上衣下巨細胞星細胞腫(結節性硬化症)subependymal giant cell astrocytoma(tuberous sclerosis)
・上衣腫ependymoma
・脈絡叢乳頭腫choroid plexus papilloma
・神経節膠腫ganglioglioma
Grade2
・原線維性星細胞腫fibrillary astrocytoma
・原形質性星細胞腫protoplasmic astrocytoma
・肥胖細胞性星細胞腫gemistocytic astrocytoma
・乏突起膠腫oligodendroglioma
Grade3
・退形成性星細胞腫anaplastic astrocytoma
・退形成性乏突起膠腫anaplastic oligodendroglioma
・退形成性上衣腫anaplastic ependymoma
Grade4
膠芽腫glioblastoma
・髄芽腫medulloblastoma
松果体芽腫pineoblastoma

WHOのGrade分類は4段階です。よってEは×。



3. 正しいものはどれですか。(3)
A. 非乳頭状の尿路上皮内癌は高異型度である。
B. 尿路上皮内癌細胞はデスミンが陽性である。
C. 膀胱尿路上皮癌の好発部位は膀眺三角部である。
D. マラコプラキアは炎症性肉芽腫性病変である。
E. 尿膜管癌は腺癌が多い。


正解:ADE

解説:

膀胱上皮内癌(非乳頭状非浸潤癌)の尿中への出現率は高く、尿細胞診が先行して陽性となることが多い。一般に乳頭状腫瘍のG2~3に相当する細胞所見を示すが、典型的な細胞像といったものがない。しかし、大型の細胞集塊で出現することはほとんどなく、異型の強い腫瘍細胞が孤立散在性に多数出現する。

よってAは○。

中間径線維は10nm前後の線維であり、中間径という名称はアクチン線維と微小管の中間の太さであることに由来する。アクチン線維と微小管がすべての細胞に共通であるのに対して、上皮細胞はケラチンkeratin、筋細胞はデスミンdesmin、筋細胞以外は間葉系細胞ビメンチンvimentin、グリア細胞はGFAP(glial fibrillary acidic protein)、神経細胞はニューロフィラメントneutofilamentというように、細胞の種類に対応した中間径線維が発現している。核膜内面にあるラミンはすべての細胞に共通している。

デスミンは筋細胞に存在する中間径フィラメントです。よってBは×。
Cの選択肢に関する文献は膀胱三角が多いというものもあったり、膀胱側壁に多いというものあったりしてよくわかりませんでした。よってCは△。

マラコプラキアは膀胱の肉芽腫性炎で、ミカエリス・グッドマンMichaelis-Gutmann小体と呼ばれる多核のマクロファージの細胞質内封入体が特徴的である。石灰と鉄からなる同心円状の封入体で、ヘマトキシリンに好染する。尿検体への出現はまれである。

よってDは○。

尿膜管癌urachal carcinomaの多くは、膀胱頂部の尿膜管の遺残組織より発生してくる腺癌である。尿膜管遺残粘膜の腸上皮化生から発生してくる腸上皮型の粘液産生性の腺癌がその大部分を占める。腺癌は早期に粘膜下浸潤を来たしやすく、また転移しやすいので、悪性度の高い癌と考えられる。

よってEは○。



4. 正しいものはどれですか。(3)
A. 正常尿路上皮細胞の核分裂像はまれである。
B. 尿中には腸上皮化生細胞も出現する。
C. 正常尿路上皮細胞にも核溝をみる。
D. 尿路上皮癌は腎には発生しない。
E. 尿路上皮癌細胞に核偏在傾向はない。


正解:ABC

解説:
AとCの選択肢に関する文献は探せませんでした。よってAとCは△。

腺性膀胱炎は老人に多く、粘液分泌型の腺細胞の出現をみる(腸上皮化生)。粘液性の尿を伴うこともある。

よってBは○。

腎盂癌pelvic cancerは腎腫瘍5~10%を占める。膀胱にみられる尿路上皮癌と基本的に同一である。症状に乏しいため早期発見は難しい。無症候性血尿や腎盂腎炎症状で見つかる場合が多い。多発することが多く、膀胱・尿管など尿路系の検索が必要である。腎盂粘膜から内腔に向けて乳頭状増殖をすることが多い。組織学的に90%以上は尿路上皮癌だが膀胱の尿路上皮癌同様に扁平上皮癌や腺癌の成分を混在することもある。

腎盂には尿路上皮癌が発生します。よってDは×。
尿路上皮癌には核偏在傾向があるものもみられます。よってEは×。



5. 悪性中皮腫について正しいものはどれですか。(3)
A. 胸水ヒアルロン酸値100000 ng/ml以上は診断価値が高い。
B. カルシトニンは陽性である。
C. 胸水は漿液性である。
D. 胸膜発生では壁側胸膜に多い。
E. びまん性に発生することが多い。


正解:ABE

解説:

悪性胸膜中皮腫を診断するうえで、胸水中ヒアルロン酸カットオフ値10万ng/mLでは感度44%、特異度96.5%となる。

よってAは○。

悪性中皮腫と腺癌の免疫学的鑑別を示す。

悪性中皮腫 腺癌
ビメンチン ±
サイトケラチン
サイトケラチン5/6
WT1
EMA
CEA
Leu-M1
MOC-31
カルレチニン

悪性中皮腫ではカルシトニンではなくカルレチニンが陽性になります。よってBは○。

中皮腫の体腔液は特徴的な粘稠性を示すことがある。これは中皮腫の産生する酸性粘液多糖類(ヒアルロン酸)によるものであり、特にアルシアンブルーに好染する。酸性粘液多糖類(ヒアルロン酸)を証明する特殊染色を示す。
・コロイド鉄染色(⧺)
・PAS染色(+)
・アルシアンブルー染色(⧺)
・ムチカルミン染色(-)
・トルイジンブルー(異調染色)
・ヒアルロニダーゼ(消失)

悪性中皮腫の体腔液はヒアルロン酸によって粘稠性が高いです。よってCは×。
Dの選択肢に関する文献は探せませんでした。よってDは△。

悪性中皮腫malignant mesotheliomaは稀な腫瘍で、アスベスト曝露と関連しており、一定期間(20~40年)を経て発生する。腫瘍は臓側や壁側胸膜から発生し、初期には多発性の結節性病変を形成する。進行するとびまん性に肺胸膜全体が肥厚し、肺内、胸壁、横隔膜に直接浸潤する。組織学的には主に上皮型、肉腫型、二相型に分類される。上皮型では類円形核を示す上皮様腫瘍細胞が、腺管状、腺房状、乳頭状、シート状構造を形成しながら浸潤増殖する。肉腫型では線維肉腫あるいは悪性線維性組織球腫に類似した紡錘形腫瘍細胞が増殖する。肉腫型で50%以上を密な線維間質が占めるものは線維形成型と呼ばれる。二相型では上皮型と肉腫型が混在しており、それぞれが腫瘍の少なくとも10%以上みられるものをいう。電子顕微鏡では全周囲に細長い微絨毛がみられることが特徴的である。

よってEは○。



6. 誤っているものはどれですか。(3)
A. HER2の発現は非浸潤性乳管癌も対象とする。
B. BRCA1遺伝子は遺伝性乳癌の代表的な原因遺伝子である。
C. Ki-67/MIB-1の標識率は乳癌治療法選択にもちいられる。
D. CD10は硬化性腺症と非浸潤性乳管癌の鑑別に有用である。
E. エストロゲンレセプター陽性乳癌の治療では化学療法が第一選択となることが多い。


正解:ADE

解説:
HER2検査は原則として浸潤癌を対象とします。よってAは×。

細胞の癌化を抑える働きをする遺伝子を癌抑制遺伝子tumor suppressor geneという。癌遺伝子が、腫瘍形成に対して優性の遺伝子変化であるのに対して、癌抑制遺伝子は、腫瘍形成を抑制する正常遺伝子の欠損であり、両側アレルの変異や欠失が必要である。癌抑制遺伝子は、その欠損が直接増殖異常を引き起こすgatekeeper型と、ゲノム不安定性や遺伝子変異の蓄積を介して間接的に癌化を促進するcaretaker型に大きく分類される。前者は癌化の入口を制御していることから、後者の遺伝子の安定性を調節していることから、このように呼ばれる。癌抑制遺伝子の代表例を表に示す。

Gatekeeper
・RB ―網膜芽腫、骨肉腫、肺小細胞癌
・p53― 大腸癌、胃癌、肝細胞癌、肺癌など多くの悪性腫瘍
・WT1 ―腎芽腫(ウィルムス腫瘍)
・p16(INK4a) ―食道癌、膵癌
APC ―大腸癌、家族性大腸ポリポーシス
・NF1 ―神経鞘腫、神経線維腫症1型
・Smad4(DPC4) ―膵臓、大腸癌
・PTEN ―子宮体癌
Caretaker型
・BRCA-1 ―乳癌、卵巣癌
・BRCA-2 ―乳癌
・hMSH2 ―大腸癌
・hMLH1 ―大腸癌

よってBは○。

ホルモン受容体陽性細胞割合が非常に高く、高分化で予後がよく、細胞毒性抗癌剤追加を支持するエビデンスのほとんどない症例から、ホルモン受容体陽性細胞割合が低く、低分化で、予後が悪く、化学療法の使用が正当化されるような患者までが連続的に分布する。概念的には、前者はLuminal A に、後者はLuminal B に該当する。これらを区分するための特性は複数存在する(核グレード、増殖指数Ki-67、ER・PgR陽性割合、腋下リンパ節転移、腫瘍周囲脈管浸潤、病理学的浸潤径、患者の意向、遺伝発現解析)ため、それぞれに閾値を設定し閾値表としてまとめられた。閾値表では細胞毒性抗癌剤を併用したほうがよいと考えられる特性、内分泌療法単独でよいと考えられるような特性、および、この判断には役に立たない特性(中間特性)の3つに分類される。細胞毒性抗癌剤追加の閾値を1つでも超えていれば、細胞毒性抗癌剤を追加する。また中間特性は、細胞毒性抗癌剤を加えるか加えないかという判断において決定的な基準とはならないが、これらの中間特性のすべてが満たされるような場合、通常、化学療法を加える傾向に傾くことになる。また、腫瘍径1cm 以下でER 陽性の場合、他の特性により細胞毒性抗癌剤の追加の適応があるとされるような場合でも、内分泌療法単独が推奨される。

よってCは○。

筋上皮マーカーとして、アルファ平滑筋アクチン、ミオシン(SM-MHC)、CD10、カルポニン、p63などが用いられる。このうちp63のみ核が陽性、他は細胞質に染色性を見る。また、マーカーによっては線維性隔壁に存在する筋線維芽細胞や血管壁にも陽性所見を示すので注意する。核染色性と筋上皮以外の細胞が陰性となる点でp63が有用ではあるが、診断医による好みの問題もあるように思われる。筋上皮マーカーの利用法として、いわゆる偽浸潤像を把握できる場合がある。浸潤性乳癌細胞は、極めて特殊な場合を除いて筋上皮マーカー陰性である、これに対して、硬化性腺症、放射状瘢痕、乳頭部腺腫、乳管腺腫、良性乳頭腫の辺縁などでは、間質の線維化を伴って不規則形の上皮胞巣を認め、浸潤癌と紛らわし場合がある。このような場合、胞巣辺縁に筋上皮の被覆があれば、その部分は浸潤癌ではない但し、逆(陰性であれば浸潤癌である)は真ではないので注意しなければならない。また、非浸潤性乳管癌成分が、既存の硬化性腺症内に進展しているような場合も、細かい癌胞巣それぞれを取り囲むように筋上皮介在を認めるので、癌が浸潤性であることを否定する根拠になりうる。

CD10などの筋上皮マーカーは硬化性腺症と浸潤性乳管癌との鑑別に有用です。よってDは×。

Luminal A・B 乳癌はホルモン感受性乳癌であり、術後薬物療法の基本はホルモン療法である。個々の患者で無治療であった際のベースラインリスクを考え、ホルモン療法・化学療法での予想されるリスクリダクションから、個々の患者に対してホルモン療法単独で行うか、化学療法あるいはトラスツズマブを追加するかを検討する必要がある。Luminal B typeの乳癌であっても、浸潤径が5mm以下で、リンパ節転移のないベースラインリスクの低い患者に対して、化学療法やトラスツズマブを加える必要性はないと考えるのが妥当である。逆にluminal A type 乳癌であっても、浸潤径が大きくリンパ節転移が多いベースラインリスクの高い患者では、化学療法を加えた治療を考慮すべきと考える。

ホルモン受容体陽性乳癌ではLuminalB(ベースラインの低い患者は除く)に該当しない限りホルモン療法が第一選択肢となります。よってEは×。



7. 精巣腫瘍について誤っているものはどれですか。(3)
A. 絨毛癌でAFPは陰性である。
B. セミノーマは胎盤性アルカリフォスファターゼ陽性である。
C. セミノーマの形態は多彩である。
D. 胎児性癌でhCGは陰性である。
E. 自然尿に腫瘍細胞が出現することが多い。


正解:CDE

解説:

絨毛癌choriocarcinomaは20~30代に好発し、複合組織型の一成分として発生することが多く、単一組織型は稀である。著しく出血性の腫瘍で、細胞性栄養芽細胞様細胞と合胞性栄養芽細胞様細胞の2種類の細胞からなる。正常胎盤を模倣して種々の胎盤性タンパクを産生するが、特にヒト絨毛性ゴナドトロピンhuman chorionic gonadotropin(hCG)は腫瘍マーカーとして重要である。

よってAは○。

セミノーマ(精上皮腫)seminomaは胚細胞腫瘍中最も多く、40~50%を占めている。特に定型的セミノーマは20~50歳に好発し、停留精巣からの発生率も高い、灰白色ないし黄白色の充実性腫瘍で、大きなものでは分葉状で壊死も認める。明瞭な核小体を伴う大型の核と、円形で明るく豊富な細胞質をもつ未熟な生殖細胞類似の腫瘍細胞が集団を作り、しばしばリンパ球浸潤を伴う薄い結合織により境界される。耐熱性である生殖細胞型アルカリフォスファターゼを有すること、放射線感受性が高いことなど、未熟生殖細胞の性質をそのまま保持し、前者は腫瘍マーカーとなり、後者は放射線治療により予後良好であることの理由になっている。

よってBは○。
セミノーマでは円形で淡明な細胞質を持つ腫瘍細胞が出現します。形態は多彩ではないです。よってCは×。

hCGは絨毛上皮に存在するsyncytino trophoblastic cellで産生され、絨毛癌では100%、胎児性癌では40~60%の患者で高値を示し、セミノーマでもhCGのβサブユニット(βhCG)のみが高値を示すことが約10%あるとされている。

hCGは胎児性癌で陽性となることがあります。よってDは×。

精巣に発生する腫瘍の90%以上は悪性腫瘍であるが、各種療法の進歩により、治癒率は向上しつつある。さまざまな組織型の腫瘍が発生しそれに伴い多彩な細胞所見を示す。しかし、穿刺吸引以外によい検体採取法がなく、細胞診の行われる機会は必ずしも多くはない。

精巣悪性腫瘍は自然尿中にはほとんど出現しません。よってEは×。



8. 正しいものはどれですか。(2)
A. 後天性免疫不全症候群(AIDS)はHTLV-1の感染による。
B. 多発性骨髄腫では高カルシウム血症をきたす。
C. バーキットリンパ腫ではstarry-sky像を認める。
D. MALTリンパ腫はT細胞性リンパ腫に分類される。
E. 未分化大細胞リンパ腫のほとんどはサイトケラチン陽性を示す。


正解:BC

解説:

ヒトTリンパ球向性ウイルスhuman T-lymphotropic virusにはHTLV-1、-2があり、西日本、特に九州・沖縄に多い成人T細胞白血病adult T-cell leukemia/lymphoma(ATL)を起こすHTLV-1が重要である。ATLの多くは母乳によって感染し、40歳以上で発症する。ATLでは、腫瘍細胞の浸潤を伴う皮疹やリンパ節腫脹がみられ、末梢血にはクビレの目立つ花弁状細胞が出現する。稀に、痙性脊髄麻痺(HTLV-1関連脊髄症HTLV-1 associated myelopathy:HAM)を起こす。

後天性免疫不全症候群の原因ウイルスはHIVHTLV-1は成人T細胞性白血病の原因ウイルスです。よってAは×。

形質細胞性骨髄腫は骨髄での形質細胞性腫瘍性細胞増殖を基盤として、血清Mタンパクと骨融解性病変による骨破壊、骨折、骨痛、高カルシウム血症および貧血を伴う悪性腫瘍である。

よってBは○。

バーキットリンパ腫はB細胞性腫瘍で、中等大の円形細胞のびまん性増殖を示し、混在するマクロファージによりしばしばsrarry sky(星空)像を呈するもの、アフリカ大陸の小児悪性リンパ腫の大多数を占めるアフリカ型では、先行するエプステインバー(Epstain Barr:EB)ウイルス感染ののち、下顎骨あるいは腹部腫瘤を認める。アフリカ以外でみられる非アフリカ型は、EBウイルスとの関連性はそれほど高くない。増殖期にある細胞が多く、免疫染色でKi-67(MIB-1)陽性細胞はほぼ100%に近い。腫瘍細胞にはCD20陽性、CD79a陽性、CD10陽性、CD5陰性、Bcl-2陰性である。

よってCは○。

濾胞辺縁帯リンパ腫marginal zone lymphomaは濾胞辺縁帯B細胞由来の腫瘍とみなされる。リンパ節に発生する濾胞辺縁帯リンパ腫nodal marginal zone lymphomaと節外臓器に発生する濾胞辺縁帯リンパ腫extranodal marginal zone lymphoma of mucosa associated lymphoid tissue(MALT)typeに分けられる。MALTリンパ腫は消化管、特に胃に好発するが、唾液腺、甲状腺、眼、肺、胸腺、皮膚などにも認められる。胃のMALTリンパ腫の発生にはH.pylori感染が関与しているとされる。唾液腺のMALTリンパ腫はシェーグレン症候群に、甲状腺のMALTリンパ腫は橋本病を背景として発生する。

MALTリンパ腫はB細胞性リンパ腫です。よってDは×。

未分化大細胞リンパ腫anaplastic large cell lymphomaはT細胞リンパ腫で、豊富な細胞質をもつ大型細胞からなる。CD30(Ki-1)抗原の発現を伴い、ALK(anaplastic lymphoma kinase)陽性のものが多い。ALK陽性の未分化大細胞型リンパ腫は30歳以下の若年者、男性に多い。腫瘍細胞の増殖によってリンパ節の基本構造は消失しているが、リンパ洞内への浸潤がみられることも多い。結合性をもって増殖することが多く、未分化癌や悪性黒色腫との鑑別が必要である。多形性があり、馬蹄形の特徴的な核をもつものや多核のものもみられる。免疫組織化学的にはCD30抗原のほか、上皮性細胞マーカーである上皮細胞膜抗原(EMA)が効率に陽性となる。ホジキンリンパ腫細胞と異なり、CD15は陰性である。

未分化大細胞リンパ腫はCD30とEMAが陽性になります。よってEは×。



9. 乳腺細胞診について正しいものはどれですか。(2)
A. 小葉癌と乳管癌は細胞の大きさが異なる。
B. 非浸潤癌と浸潤癌の鑑別には細胞異型が有用である。
C. 石灰化があれば悪性である。
D. 筋上皮細胞の有無は良悪の鑑別の指標とはならない。
E. 壊死の有無は間質浸潤の指標とはならない。


正解:DE

解説:
Aの選択肢に関する文献は探せませんでした。よってAは△。

非浸潤性乳管癌non-invasive ductal carcinomaは乳管上皮由来の癌で間質への浸潤がみられないものである。癌は主に乳頭状、乳頭管状、篩状、充実性、面疱状の組織像を示す。これらが単一ないし、複数の組み合わせでみられる。面疱状癌では壊死物質を伴い、癌細胞の細胞異型も目立つため、浸潤性乳管癌と鑑別が難しい。

非浸潤癌でも細胞異型の強いものがあります。よってBは×。

石灰化物質はヘマトキシリンに染まる結晶様物質である。同心円状に層状の構造がみられる場合に砂粒小体とよぶ。器質的疾患を疑わせるものではあるが、有無や形態から病変の良悪性を区別できない。

石灰化は細胞が壊死してそこにカルシウムが沈着することで起こります。癌細胞による石灰化もありますが良性病変のほうが石灰化のみられる頻度は高いです。よってCは×。

二相性を保持した増殖、すなわち筋上皮細胞を伴った乳管上皮細胞の増殖は通常良性を意味する。筋上皮細胞の存在の存在は良性病変を意味する重要な所見となる場合が多い。浸潤性乳管癌では基本的に二相性の消失(筋上皮細胞の消失)がみられる。ただし、非浸潤性乳管癌では筋上皮を伴うことがあるので総合的な判断が必要である。

よってDは○。

壊死物質には周囲の正常組織が腫瘍に冒されたことにより壊死を起こしたものと、腫瘍細胞自体が壊死に陥ったものがある。いずれも癌でみられることが多い所見であるが、良性腫瘍が閉塞壊死などを起こした場合にもみられることがあるので絶対的な所見ではない。

よってEは○。



10. 腹腔洗浄細胞診が進行期分類の決定に関わっているものはどれですか。(2)
A. 子宮頸癌
B. 子宮体癌
C. 卵巣癌
D. 胃癌
E. 膵癌


正解:CD

解説:
子宮体癌は以前に腹腔洗浄細胞診が進行期分類の決定に関わっていましたが、現在の取扱い規約では進行期分類から腹腔洗浄細胞診は外されています。よってBは×。

卵巣癌の進行期の決定は臨床的検査ならびに/あるいは、外科的検索によらなければならない。進行期決定にあっては組織診を、また体腔滲出液については細胞学的診断を考慮すべきである。骨盤外の疑わしい個所については生検して検索することが望ましい。

よってCは○。

胃癌取扱い規約では、CYが癌の進行度(stage)分類、根治度の指標として組み込まれている。その記載方法は
CY0(陰性):癌細胞を認めない
CY1(陽性):癌細胞を認める
CYX(実施せず):CYを行っていない
と3つに分けられる。CY1症例はstageⅣに分類する。Suspicious malignancyはCY0とする。

よってDは○。
子宮頸癌と膵癌は調べていません。申し訳ございません。



11. 乳腺について誤っているものはどれですか。(2)
A. 小葉癌は他の組織型と比較すると両側性発生が高率である。
B. 葉状腫瘍における良・悪性の鑑別は、上皮成分の細胞異型で決定される。
C. 小葉癌は、エストロゲンレセプターの陽性率が低い。
D. 硬癌はマンモグラフィーでspicula像を呈することが多い。
E. 女性化乳房では乳腺小葉を認めない。

正解:BC

解説:

非浸潤性小葉癌(LCIS:lobular carcinoma in situ)は通常、多中心性で、両側性であることが多い。

よってAは○。

葉状腫瘍phyllodes tumorは線維性結合織(間質)と乳管上皮の混合腫瘍であるが線維腺腫と比較し線維性結合織の増殖が著明である。画像でも組織像でも腫瘤が葉状を示す。間質の悪性度より良性、境界病変、悪性に分けるが上皮成分は悪性像を示さない。

葉状腫瘍は間質の悪性度により良・悪性に分類されます。よってBは×。

浸潤性小葉癌は浸潤性乳管癌と比較し、ホルモン受容体が高度に発現している例が多い。そのため、化学療法よりホルモン療法が有効となることがある。

小葉癌はホルモン受容体が高率で発現しています。よってCは×。
スピキュラは間質結合織の増生が強く浸潤性に周囲を巻き込みながら発育していく腫瘍細胞の組織像を反映しています。間質浸潤が強い乳癌は硬癌と小葉癌です。よってDは○。
男性の乳腺には小葉系がないそうです。よってEは○。



12. 副腎について誤っている組み合わせはどれですか。(2)
A. アルドステロン―網状帯
B. コルチゾール―束状帯
C. ノルアドレナリン―髄質
D. アドレナリン―髄質
E. 性ホルモン―球状帯


正解:BC

解説:

皮質は3層構造をもち、外側から球状層zona glomerulosa、束状層zona fasciculata、網状層zona reticularisと呼ばれ、それぞれ異なるステロイドホルモンを産生する。胎児期には、胎児層と呼ばれる皮質が存在するが、出征後退縮し、成人型の構造となる。球状層からは鉱質コルチコイド(アルドステロンaldosterone)、束状層からは糖質コルチコイド(コルチゾールcortisol)、網状層からは男性ホルモンtestosteroneを産生する。解剖学的に異なる部位で異なる酵素活性を示し、コレステロールからそれぞれのホルモン合成を機能分担している。束状層と網状層は下垂体ACTHの調節を受ける。

よってBは○。
アルドステロンは球状帯、性ホルモンは網状帯から産生されます。よってAとEは×。

副腎髄質は、副腎の内側に位置し、クロム親和性細胞から構成され、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)やペプチドホルモンを産生分泌する。髄質のクロム親和性細胞由来の腫瘍は、重クロム酸を含む固定液に漬けると褐色に変わるため、褐色細胞腫pheochromocytomaと呼ばれる。

よってCとDは○。



13. 乳腺細胞診について正しいものを1つ選びなさい。(1)
1. 壊死物質があれば悪性である。
2. 石灰化小体は良性病変ではみられない。
3. 背景の粘液出現は悪性の指標となる。
4. 軟骨基質は良性病変ではみられない。
5. 双極裸核は良性病変の指標とされる。


正解:5

解説:この問題さっきもみたような……。

壊死物質には周囲の正常組織が腫瘍に冒されたことにより壊死を起こしたものと、腫瘍細胞自体が壊死に陥ったものがある。いずれも癌でみられることが多い所見であるが、良性腫瘍が閉塞壊死などを起こした場合にもみられることがあるので絶対的な所見ではない。

壊死は良性腫瘍でもみられることがあります。よって1は×。

石灰化物質はヘマトキシリンに染まる結晶様物質である。同心円状に層状の構造がみられる場合に砂粒小体とよぶ。器質的疾患を疑わせるものではあるが、有無や形態から病変の良悪性を区別できない。

石灰化小体も良性病変でもみられることがあります。よって2は×。

多量の粘液は粘液癌を示唆する重要な所見である。しかし、非癌病変であるmucocele like tumorでも粘液がみられることがある。

mucocele like tumorでも背景に粘液がみられます。よって3は×。

線維腺腫fibroadenomaは、乳腺良性病変の代表である。乳腺内に孤立性または多発性に発生する境界明瞭な腫瘍を形成する。線維成分は粘液状で未熟な線維芽細胞をもつものから、緻密な結合組織を伴うものまである。硝子化や石灰化、骨化を伴うこともある。

線維腺腫で軟骨基質がみられることがあります。よって4は×。

双極裸核naked bipole nucleusは乳管上皮細胞の集団やその周辺にみられる双極性や楕円状の裸核細胞で、筋上皮細胞由来である。双極裸核が多数出現する場合には線維腺腫など良性病変を示唆する。

よって5は○。



14. 甲状腺について誤っているものを1つ選びなさい。(1)
1. ベセスダシステムでは、嚢胞液のみの材料は検体不適正となる。
2. 乳頭癌は予後良好である.
3. 髄様癌はカルシトニン産生腫瘍である。
4. 髄様癌はCEAが高値となる。
5. 悪性リンパ腫のほとんどはT細胞由来である。


正解:5

解説:
ベセスダシステムにおいて嚢胞液のみや細胞少数、その他(血液過多、凝血など)の理由で検体不適正となります。よって1は○。

乳頭癌papillary carcinomaは、高分化の濾胞細胞由来腫瘍であり、乳頭癌の核所見のあるものを呼ぶ。乳頭癌の核所見とは、核内細胞質封入体、核溝、スリガラス状核である。乳頭構造がなくとも、これらの核所見があれば濾胞型乳頭癌と呼ぶ。リンパ節転移が高頻度にあり、再発様式も乳頭癌に近く、臨床的には乳頭癌として治療することが勧められている。甲状腺癌の術前診断に、細胞診断が用いられる。乳頭癌の診断精度は90%以上と高い。乳頭癌は、わが国では最も頻度の高い甲状腺癌であり、甲状腺悪性腫瘍の90%以上を占める。乳頭癌は甲状腺内に多発する例が50%程度あり、甲状腺内転移も多く、甲状腺を全摘することが勧められている。リンパ節転移は80%以上にあり、頸部リンパ節廓清が行われる。リンパ節転移があっても、根治的に治療が可能な例では、予後は大変よく、10年生存率は90%以上である。

よって2は○。

髄様癌medullary carcinomaは、充実性、髄様増生と、間質のアミロイド沈着を組織学的特色とする甲状腺の神経内分泌腫瘍である。肉眼的には神経内分泌腫瘍の特色である拡大増生(一般に被膜は作らないが境界は明瞭)、割面は帯黄色、充実性である。甲状腺C細胞(傍濾胞細胞)由来腫瘍であり、カルシトニンを産生する。カルシトニンとCEA(癌胎児抗原)が腫瘍マーカーであり、診断と再発の検出に血中カルシトニンとCEAの測定が用いられる。

よって3と4は○。

甲状腺濾胞上皮とC細胞以外の組織発生が推定される腫瘍として、比較的頻度の高い甲状腺悪性腫瘍は、リンパ球由来の悪性リンパ腫がある。正常甲状腺には、リンパ組織は存在しないが、橋本病甲状腺炎を基盤として発生すると推定されている。B細胞性リンパ腫がほとんどを占め、悪性リンパ腫としては、比較的悪性度の低いものが多く、化学療法と放射線療法が行われる。

甲状腺悪性リンパ腫はMALTリンパ腫でB細胞由来です。よって5は×。



15. 反応性中皮細胞について誤っているものを1つ選びなさい。(1)
1. 細胞質は中心部が厚い。
2. N/C比は低い。
3. 細胞間に有窓状空隙を認める。
4. 核縁の肥厚を認める。
5. PAS反応で細胞質辺縁部が顆粒状に染色される。


正解:4

解説:

反応性中皮細胞の細胞学的特徴を以下に示す。
・N/C比は軽度に高くなることがある。
・細胞質の肥厚化が特徴的である。
・核小体の腫大化があり、2~3個みられることもある。
・核縁に目立った肥厚はない。
クロマチンが目立って濃染することはない。
・滴状表面構造、window、相互封入像、ロゼット状、乳頭状、多核化がみられる。

よって1と2と3は○。
反応性中皮細胞は核縁の肥厚は目立ちません。よって4は×。

反応性中皮細胞には、PAS染色では細胞質辺縁帯にグリコーゲンの陽性顆粒がみられる細胞が多く出てくる。アルシアン青染色での表面被覆物質は大型の中皮や集塊の部分にみられ、薄いが、厚さは均等で全周性である。

よって5は○。



16. 誤っている組み合わせを1つ選びなさい。(1)
1. 悪性黒色腫―HMB45
2. ユーイング肉腫―平滑筋アクチン
3. 神経芽腫―シナプトフィジン
4. 滑膜肉腫―bcl-2
5. GIST―CD117(KIT)


正解:2

解説:

悪性黒色腫malignant melanomaはメラノサイト由来の悪性腫瘍で、全悪性腫瘍の中で最も予後が悪いものの1つといわれている。白人に多く、紫外線、外傷などが誘引となる。組織学的には表皮内黒色腫melanoma in situと浸潤性黒色腫invasive melanomaに分けられる。前者には、黒色癌前駆症とも呼ばれる悪性黒子が含まれ、表皮基底層で異型メラノサイトの増殖が認められる。後者の浸潤性黒色腫は、臨床病理学的に悪性黒子型黒色腫(増殖は緩徐)、表在拡大型黒色腫、末端黒子型黒色腫(手掌、足底、爪に好発)、結節型黒色腫(最も悪性度が高い)の4型に分類される。いずれも黒色で、左右非対称性、辺縁不整、色調不均一、大きさは直径6mm以上、隆起性である。組織像は多彩であるが、いずれにも異型性の強いメラノサイトの増殖が認められる。腫瘍細胞は免疫染色でS-100タンパク陽性、HMB-45陽性、melan-A陽性である。リンパ行性または血行性に転移しやすい。

よって1は○。

ユーイング肉腫は骨原発の未分化な小円形細胞からなる腫瘍で、10~20代の長管骨骨幹に好発する。X線的にはonion skin像と呼ばれる骨膜の反応性骨形成像がみられる。組織学的には細胞境界は不明瞭、核クロマチンは繊細、核小体は目立たない。PAS染色で細胞質内に多量のグリコーゲン顆粒を認め、鍍銀染色では細胞間の好銀線維の発達が悪い。壊死が目立つと血管周囲性の腫瘍細胞配列perithelial arrangementをみる。Homer Wrightロゼット形成や神経節細胞への分化、免疫染色による神経特異エノラーゼ、S100タンパク、CD56、CD57、シナプトフィジン、ニューロフィラメント、クロモグラニンAなどの神経性マーカー陽性所見、電顕による神経内分泌顆粒など神経系分化を示す腫瘍を末梢型未分化神経外胚葉性腫瘍(pPNET)とするが、同一腫瘍の分化の相違である。両者ともビメンチン、CD99(MIC2遺伝子産物)が陽性を示す。

ユーイング肉腫は神経系のマーカーとビメンチン、CD99が陽性となります。よって2は×。

シナプトフィジンSynaptophysinはMajor synaptic vesicle protein p38とも呼ばれるように神経細胞のシナプス小胞 presynaptic vesicleの膜に局在するカルシウム結合性の膜糖蛋白で、副腎髄質、下垂体、膵などの神経・神経内分泌細胞の細胞質に見られる他、腫瘍では神経芽細胞腫Neuroblastoma、神経節芽細胞腫Ganglio-neuroblastoma、褐色細胞腫Pheochromo-
cytoma、傍神経節腫Paragangliomaや下垂体腺腫、膵、甲状腺などの neuroendocrine carcinomaに広い範囲で反応が見られる。神経内分泌細胞に対しては分泌顆粒の乏しいものにも反応する反面、特異性はChromogranin Aよりも低いといわれ、またホルマリンの過剰固定により陰性化しやすいので熱処理が必要な場合がある。

よって3は○。

bcl-2蛋白は細胞がアポトーシスに陥るのを防ぐ役割がある。正常組織では、リンパ節のマントルゾーンのB細胞やT細胞領域の細胞が陽性となる。濾胞性リンパ腫、リンパ濾胞芽中心由来のリンパ腫、多くの上皮性腫瘍、滑膜肉腫で陽性となる。

よって4は○。

GISTは受容体型チロシンキナーゼをコードするc-kit遺伝子の産物やCD34を発現している。他方、消化管間葉系腫瘍の10~20%を占める平滑筋腫瘍では平滑筋アクチンα-amooth muscle actin(α-sma)やデスミンが発現している。

よって5は○。



17. 誤っているものを1つ選びなさい。(1)
1. 骨髄腫ではアミロイドーシスの合併がみられる。
2. 成人T細胞性白血病は末梢血液中に花弁様細胞みられる。
3. 慢性リンパ性白血病は末梢血で白血球増多をきたす
4. 原発性マクログロブリン血症は血中IgMの増加伴う。
5. 慢性骨髄性白血病では21番染色体に異常がみられる。


正解:5

解説:
骨髄腫では免疫グロブリンが組織に沈着することでアミロイドーシスになることがあります。よって1は○。

成人T細胞白血病/リンパ腫adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL)はヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型human T cell leukemia virus typeⅠ(HTLV-Ⅰ)の感染により引き起こされる成熟T細胞腫瘍であり、HTLV-Ⅰプロウイルスが単クローン性に腫瘍細胞に組み込まれている。HTLV-Ⅰはヒトにおいて初めて疾患との関連が明らかにされたレトロウイルスである。HTLV-ⅠのTax遺伝子が腫瘍化に密接に関与している。腫瘍細胞は種々の大きさと形態を示し、びまん性に増殖する。ときに脳回転状の核を有する巨細胞がみられる。腫瘍細胞の大きさに関係なく核異型が著しい。腫瘍細胞は通常CD3+、CD4+、CD8-、CD25+の表現型を示す。症状は皮膚症状、リンパ節腫大、肝脾腫、高カルシウム血症がみられる。末梢血液中に出現する典型的な白血病細胞は花弁状あるいは分葉状の核を有する細胞(flower cell)である。予後は極めて悪く、急性型は4~6か月で死亡する。

よって2は○。

慢性リンパ性白血病/小細胞型リンパ腫(CLL/SLL)は小型の成熟リンパ球に近似した細胞の腫瘍性増殖である。CLLは、骨髄、末梢血に主座があるものをさす。高齢者に多く(平均年齢65歳)で、末梢血中に5000~15000/μlの場合は、単クローン性(免疫グロブリンの軽鎖に偏っているか、クローナルな免疫グロブリン遺伝子の再構成)がB-CLLの診断根拠となる。CLL/SLLは成熟B細胞性の正常を示しており、CD23とT細胞マーカーであるCD5を共発現しているところが他のB細胞性リンパ腫と区別できる所見である。形質細胞でよくみられるCD38、あるいはZAP-70を有する場合は予後不良である。

よって3は○。
マクログロブリンは通常IgMを指します。よって4は○。

慢性骨髄性白血病は多能性造血幹細胞に形質転換が起こり、3血球系統が異常増殖する慢性疾患で、慢性骨髄増殖性疾患の一つである。この疾患では9番染色体と22番染色体が相互転座し、22番染色体長腕にあるbcr遺伝子と9番染色体abl遺伝子が融合する。そしてt(9;22)(q34;q11)によって短くなった22番染色体をフィラデルフィア染色体(Ph染色体)と呼んでいる。

慢性骨髄性白血病は9番染色体と22番染色体が相互転座を起こしています。よって5は×。



18. 誤っている組み合わせを1つ選びなさい。(1)
1. 神経鞘腫―核の柵状配列
2. 膠芽腫―花むしろ状配列
3. 髄膜腫―砂粒体
4. 乏突起膠腫―日玉焼き像
5. 上衣腫―血管周囲性偽ロゼット


正解:2

解説:

神経鞘腫schwannomaは、構造ないし細胞異型からAntoni-A型とB型に分類されている。Antoni-A型では、細長い紡錘形細胞が束状ないし渦巻状に規則正しく配列している。穿刺材料で得られた腫瘍細胞は、孤立細胞はほとんどなく、一塊として出現することが多い。集塊を構成する紡錘形細胞の柵状配列(palisading)の出現や、細胞質内線維や核は波状にうねっている像は、本腫瘍の診断のチェックポイントとなる。他方、Antoni-B型は、標本背景に粘液様物質がみられ、核の大小不同性、核の濃染などの異型性が目立つ。

よって1は○。

膠芽腫glioblastomaは膠腫の30~40%を占め、40~60代の大脳半球(特に前頭葉と側頭葉)に好発する。肉眼的に出血、壊死が著名でそのため多彩色調を示す。組織学的には大小不同性、多形性の著明な異形細胞の密な増殖よりなり、多核の巨細胞も多数出現する。核分裂像も目立つ。短紡錘形の腫瘍細胞が壊死巣を取り囲んで柵状に配列する偽柵状配列や、血管の増殖、血管内皮細胞の腫大・増生は本腫瘍に特徴的な所見である。

未分化多型肉腫(悪性線維性組織球症)malignant fibrous hystiocytoma(MFH)は組織学的には花むしろ状模様storiform patternを特徴とする悪性腫瘍である。細胞診上ではこれらの特徴はみつけられにくいが、腫瘍細胞は紡錘形、不整形、多核巨細胞と極めて多種多様で、多形核が目立ち、核濃染、核小体の著明な腫大と核の増加がみられる。一見として悪性と判断がつく所見を示すことが多い。多形型肉腫の代表例である。

膠芽腫では偽柵状配列が特徴的です。花むしろ状パターンを特徴とするものは未分化多型肉腫です。よって2は×。

髄膜腫meningiomaは髄膜に発生する良性腫瘍で、頭蓋内腫瘍としては膠腫に次いで多くみられ、脊髄でもシュワン細胞腫と並んで頻度が高い。中年もしくはそれ以後に発生し、大脳鎌、傍矢状部、大脳円蓋部などに好発する。腫瘍は淡赤色で半球状の硬い結節を作り、硬膜内面に強く癒着する。組織学的に髄膜皮型、線維型、移行型、砂粒腫型など多数の亜型に分類されている。髄膜皮型は境界不明瞭な細胞の合胞状、充実性の細胞巣からなり、線維型は細長い紡錘形細胞が主体をなす。移行型は前2者の混在したもので、毛細血管の周囲に同心円状の渦巻を形成する傾向がある。砂粒小体psammoma bodyの出現が著明にみられるものは砂粒腫型と呼ばれている。

よって3は○。

乏突起膠腫oligodendrogliomaは突起の乏しい小型の細胞が増殖した腫瘍である。成人の大脳半球、特に前頭葉が好発部位で、組織学的には円形の核と明るい細胞質をもつ類円形の腫瘍細胞が比較的密に増殖している。核周囲にハローがあるようにみえる像は乏突起膠腫に特徴的な所見であり、蜂の巣構造honey-comb structureあるいは目玉焼き像fried-egg appearanceと呼ばれている。免疫組織化学的に腫瘍細胞はOlig2が陽性である。腫瘍細胞に異型性が現れたものが退形成性乏突起膠腫anaplastic oligodendrogliomaである。

よって4は○。

上衣腫ependymomaは、膠腫の5~6%で小児期に多く見られ、好発部位は第四脳室底部、脊髄、側脳室、第三脳室の順である。組織学的には腫瘍は脳室を取り囲む上衣細胞の形態と配列を模倣し、血管周囲偽ロゼット、およびときには真性ロゼットが認められる。

よって5は○。



19. 誤っているものを1つ選びなさい。(1)
1. 横紋筋肉腫は小児悪性軟部腫瘍の約半数を占める
2. ユーイング/PNET腫瘍はPAS反応陽性である。
3. 軟骨性腫瘍細胞の2核化は良悪性の指標となる。
4. 骨巨細胞腫は単核細胞と多核巨細胞で構成される
5. 骨肉腫の大部分は小円形細胞腫瘍である。


正解:5

解説:

横紋筋肉腫の患者の約70%が6歳以下(1歳未満は5%)であり、乳児期、5歳から7歳頃および10歳代に多く発生するが、まれに成人に発生することもある。横紋筋肉腫は、小児がんの2.9%を占めるに過ぎない比較的まれな腫瘍だが、軟部肉腫の中では小児で最も頻度の高い。

よって1は○。

ユーイング肉腫は骨原発の未分化な小円形細胞からなる腫瘍で、10~20代の長管骨骨幹に好発する。X線的にはonion skin像と呼ばれる骨膜の反応性骨形成像がみられる。組織学的には細胞境界は不明瞭、核クロマチンは繊細、核小体は目立たない。PAS染色で細胞質内に多量のグリコーゲン顆粒を認め、鍍銀染色では細胞間の好銀線維の発達が悪い。壊死が目立つと血管周囲性の腫瘍細胞配列perithelial arrangementをみる。Homer Wrightロゼット形成や神経節細胞への分化、免疫染色による神経特異エノラーゼ、S100タンパク、CD56、CD57、シナプトフィジン、ニューロフィラメント、クロモグラニンAなどの神経性マーカー陽性所見、電顕による神経内分泌顆粒など神経系分化を示す腫瘍を末梢型未分化神経外胚葉性腫瘍(pPNET)とするが、同一腫瘍の分化の相違である。両者ともビメンチン、CD99(MIC2遺伝子産物)が陽性を示す。

よって2は○。
3の選択肢に関する文献は探せませんでしたが、軟骨肉腫は細胞密度が高くなり軟骨小窩には2核細胞がみられるといった記述はありました。よって3は△。

骨巨細胞腫giant cell tumor of boneは短紡錘形ないし紡錘形の基質細胞と、数個から100数個の核を有する多核巨細胞の混在が特徴である。間質細胞と多核巨細胞の間には移行像がみられる。間質細胞および多核巨細胞の核の異型性は軽度であり、他の骨発生の肉腫にみられるほどの大型核や形の不整は認められない。

よって4は○。

骨肉腫osteosarcomaは腫瘍細胞が骨や類骨を形成していることを確認しなければならない。しかし、細胞診標本ではこれらを確認できるとは限らない。また、骨肉腫の細胞像は多彩で、症例ごとに異なるため、骨肉腫特有の細胞像はない。

骨肉腫の細胞像は多彩で一見して悪性とわかるほどです。よって5は×。



20. 誤っているものを1つ選びなさい。(1)
1. 下垂体腫瘍は腺腫が多い。
2. 嫌色素性腺腫は均一な大きさの細胞からなる。
3. 好酸性腺腫は多形性に富む細胞よりなる。
4. 成長ホルモンは下垂体前葉から分泌される。
5、抗利尿ホルモンは下垂体後葉から分泌される。


正解:3

解説:

垂体腺腫pituitary adenomaは、前葉細胞が腫瘍性に増殖した疾患で、多くは良性腫瘍である。一部に周囲組織に浸潤増殖を示すものがあり、頭蓋の外まで転移がみられる悪性例はきわめて稀である。過剰分泌されるホルモン症状が多くの例でみられ(機能性腺腫)、腫瘍の圧迫による視神経の障害(視野障害)、健常部下垂体機能障害を来たす。下垂体腺腫では、PRL産生腫瘍が多く(30%程度)、次いでGH産生腫瘍(15~25%)、非機能性腺腫(15~20%)やACTH産生腫瘍(10%程度)が多く報告されており、TSH産生腺腫は稀(1%程度)とされる。

よって1は○。

PRL産生腫瘍は最も多い下垂体腺腫であり、古典的には嫌色素性腺腫である。女性患者では、無月経、不妊、ガラクトレア(乳汁漏出)を来たしForbes-Albright症候群と呼ばれる。男性にも頻度は低いが発生し、女性化乳房、勃起障害などを呈する。腫瘍細胞は小型類円形の核をもち、淡明な細胞質をもつ。免疫組織学的にPRLがほぼ全細胞に陽性を示す。

よって2は○。
3の選択肢に関する文献は探せませんでした。よって3は△。

下垂体前葉には
1)成長ホルモンgrowth hormone(GH)
2)プロラクチンprolactin(PRL)
3)副腎皮質刺激ホルモンadrenocorticotropic hormone(ACTH)
4)黄体形成ホルモンluteinizing hormone(LH
5)卵胞刺激ホルモンfollicle stimulating hormone(FSH)
6)甲状腺刺激ホルモンthyroid stimulating hormone(TSH)
の6種のホルモン産生細胞が知られている。

よって4は○。
下垂体後葉からは抗利尿ホルモンantidiuretic hormone(ADH)とオキシトシンoxytocin(OT)
が分泌されます。よって5は○。



昨年度の傾向は体腔液3問、乳腺4問、甲状腺1問、泌尿・生殖器4問(副腎も含む)、脳腫瘍3問、骨・軟部腫瘍2問、血液・リンパ節腫瘍3問とどの分野もあまり偏りがなくまんべんなく出題されていたようですね。