雑記

時間があるときに細胞検査士の筆記試験の過去問を解いています

平成25年度 消化器 筆記試験 過去問

消化器の過去問です。けっこうコアな問題も出題されやすい分野で幅広く勉強しておく必要があります。細胞診の問題というよりは病理組織学的な問題が多いような気がします。


1. エナメル上皮腫について正しいものはどれですか。(3)
A. 歯原性腫瘍の中で最も発生頻度が高い。
B. 60歳以上に好発する。
C. 上顎骨に好発する。
D. エナメル器類似の上皮島が特徴である。
E. 良性腫瘍に分類される。


正解:ADE

解説:

歯原性腫瘍ではエナメル上皮腫の発生率が最も高く、ついで角化嚢胞性歯原性腫瘍、歯牙腫、骨関連腫瘍と続き、99%以上が良性腫瘍で、悪性腫瘍の発生はまれである。

よってAとEは○。

エナメル上皮腫ameloblastomaは代表的な歯原性腫瘍で、腫瘍の実質が歯胚の上皮成分であるエナメル器や歯堤に類似した構造を示す。腫瘍は嚢胞性または充実性増殖を示し、全体として膨張性に発育する。腫瘍の増大に伴い顎骨は吸収されて膨隆を来たす。発生起源細胞として外エナメル上皮が推定されているが、成因は不明である。頻度に人種差が推定され、白人より有色人種に多い。日本では口腔腫瘍の14%であるのに対し、欧米では1%と低い。組織像は分化の程度により異なるが、実質がエナメル器に類似し、中心部はエナメル髄様の星状網様細胞、周辺部にはエナメル芽細胞に似た立方形~円柱形細胞よりなるものが多い。WHO分類では濾胞型、叢状型、棘細胞型、基底細胞型、顆粒細胞型に分けられる。長期にわたり再発を繰り返したのち、稀に悪性化することがあり、悪性エナメル上皮腫と呼ばれる。好発年齢は20~30代で幼児は少ない。下顎大臼歯部から下顎枝にかけて好発し(80%)、埋伏歯を伴うことが多い。顎骨内の多胞性または単胞性のX線透過像を示す。稀に同一の組織像を示す腫瘍像が長管骨に発生する。

よってDは○。
エナメル上皮腫の好発年齢は20~30代です。よってBは×。
エナメル上皮腫は下顎骨に好発します。よってCは×。



2. GISTについて正しいものはどれですか。(3)
A. malignant potentialを有する腫瘍である。
B. KITとCD34が必ず陽性である。
C. 類上皮型は悪性度が低い。
D. 腫瘍径と核分裂像はリスク評価に用いる。
E. 発生頻度は胃、小腸、大腸の順に高い。


正解:ADE

解説:GISTに関する問題は過去問でも出題頻度が高いです。

胃腸管間質腫瘍(GIST:gastrointestinal stromal tumor)は消化管の紡錘形細胞よりなる非上皮性腫瘍で、潜在悪性あるいは悪性と考えられている。

よってAは○。

現時点におけるGISTの大まかな定義としては、消化管壁に発生する間葉系腫瘍のうちKITを発現する腫瘍、言い換えるとICCs(intestitial cell of Cajar:カハール介在細胞)への分化を示した腫瘍ということができる。しかしKITの発現が免疫組織化学的に検出できないものでも、形態学的およびKIT以外の免疫組織化学上GISTと違いを見出せない腫瘍(特に免疫組織化学的にCD34が陽性となるもの)はGISTと診断すべきと考える。しかし、悪性のGISTに対してKITを標的とした治療が行われている現在、このようなGISTはKIT陰性GISTと診断・記載するのが望ましいと考える。

KIT陰性GISTと診断されるものもあるそうで、必ずしもKITとCD34が陽性になりません。よってBは×。
GISTは紡錘細胞型、類上皮型、混合型に分類されますが、類上皮型は予後不良です。よってCは×。

GISTや平滑筋腫瘍の良悪性診断に関して明確な基準はないが、腫瘍径5cm以上、核分裂像が400倍の50視野中10個以上あれば、悪性あるいは高リスク群と判断される。消化管全体ではGISTの約30%が悪性であり、肝臓に転移したり、腹膜に播種性病変を形成して再発する。胃のGISTは予後良好、小腸では予後不良の傾向がある。

よってDは○。

GISTの相対的頻度は全消化管腫瘍の0.2~0.5%程度と考えられ、胃に限ると胃癌の2~3%程度、小腸では小腸腫瘍の14%程度、大腸では大腸癌の0.1~0.3%程度と考えられる。GIST自体の臓器別発生頻度は、胃が全GISTの60~70%を占め、残りは小腸20~30%、大腸5%、食道5%である。消化管Stromal Tumorsの発生場所と組織型の関係をみると、食道では相対的に筋原性腫瘍(多くは平滑筋腫)の頻度が高い。神経原性腫瘍は胃に多いが、絶対数で胃に一番多い腫瘍はGISTであり、特に胃体上部から弓隆部にかけてはほとんどがGISTである。小腸のStromal TumorsはほとんどGISTである。大腸も多くはGISTで、一部に筋原性腫瘍を認める。GISTの発生頻度に男女差はなく、GISTの好発年齢は40歳代以降の中高年で、50歳代~60歳代が最も頻度が高い。小児での発生発症は非常に稀である。

よってEは○。



3. 大腸腫瘍について正しいものはどれですか。(3)
A. 癌化する腺腫は有茎性のものが多い。
B. Peutz-Jeghers型ポリープは過誤腫である。
C. 隆起性の大腸癌は高分化型が多い。
D. 遺伝性非ポリポーシス大腸癌は若年の発症率が高い。
E. 大腸癌は右側結腸に多い。


正解:BCD

解説:
Aの選択肢に関する文献は探せませんでした。よってAは△。

Peutz-Jeghers症候群は皮膚粘膜の色素沈着と消化管の過誤腫性ポリポーシスを合併する常染色性優性遺伝疾患で、癌合併の頻度が高い。ポリープは食道を除く全消化管に散在性に認められ、大小不同で5cmを超える有茎性のものもみられ、腸重積の原因になることもある。組織学的には過誤腫と分類されているが、腺腫を合併することがあり、消化管の癌合併率は約20%である。消化管以外でも、卵巣癌、乳癌、子宮癌など、女性生殖器系の癌を合併しやすい。消化器症状としては血便、腹痛、イレウス症状、肛門からのポリープの脱出などが認められる。腸重積はその大部分が小腸に発生する。皮膚粘膜の色素沈着は、口唇、口囲、口腔内、四肢末端部を中心に左右対称の茶褐色ないし黒褐色の色素斑として認められる。

よってBは○。

早期大腸癌の肉眼分類に関しては、大腸癌取扱い規約によれば、Ⅰ型:隆起型(Ⅰp―有茎性、Ⅰsp―亜有茎性、Ⅰs―無茎性)、Ⅱ型:表面型(Ⅱa―表面隆起型、Ⅱb―表面平坦型、Ⅱc―表面陥凹型)がある。大腸癌の多くは腺腫内に癌が発生し、進展すると考えられている(腺腫癌相関)。最近では腺腫を介さないとされるde novo型癌も注目されている。形態的には表面型癌がその候補としてあげられている。

よってCは○。

遺伝性非ポリポーシス大腸癌hereditary non-polyposis colorectal cancer(HNPCC)は消化管ポリポーシスは伴わないが、遺伝的に癌が多発する疾患として遺伝性非ポリポーシス大腸癌、Lynch syndromeが知られている。HNPCCの原因遺伝子として1993年から1995年までにhMSH2、hMLH1、hPMS1、hPMS2、CTBPなどのDNAのミスマッチ修復遺伝子が同定された。修復遺伝子の異常は、マイクロサテライト領域での異常に反映され、ミスマッチが修復されずにDNA複製エラーが蓄積されて、発癌に至ると考えられている。最近、TGF-βR-Ⅱ遺伝子が標的遺伝子であることが明らかにされた。HNPCCの診断基準はAmsterdamの診断基準Ⅱを用いるのが望ましい。HNPCCでみられる大腸癌は組織学的に、低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌の割合が高く、また、flat adenomaや結節性集簇様病変が好発するが、意義づけは明らかでない。

Amsterdamの診断基準Ⅱ(1999年)
3名以上の血縁者がHNPCC関連癌に罹患しており、かつ以下のすべての条件を示すもの。
①罹患者の1名は、他の2名の第一度親近者であること。
②少なくとも継続する2世代にわたり罹患者がいること。
③罹患者の1名は50歳未満で診断されていること。
④家族性大腸腺腫症が除外されていること。
⑤癌の診断が組織学的に確認されていること。
※HNPCC関連癌は大腸癌、子宮内膜癌、小腸癌、腎盂尿管癌である。

引用文が長いですが、大体の遺伝性疾患は若年者に多く、自己免疫性疾患は中年~高齢者に多いですね。よってDは○。

分布としては、早期癌はS状結腸(60~70%)に最も多く、次いで直腸、下行結腸、上行結腸の順に多い。進行癌はわが国では直腸癌とS状結腸に多いが、大腸癌好発地域である欧米では結腸癌、特にS状結腸が多い。

大腸癌の好発部位はS状結腸です。よってEは×。



4. 肝臓について正しいものはどれですか。(3)
A. ウイルス性肝炎では好中球主体の炎症細胞浸潤がみられる。
B. うっ血性肝硬変では肝細胞由来の多核巨細胞がみられる。
C. 非アルコール性脂肪性肝疾患では大脂肪滴がみられる。
D. 胆汁うっ滞型の薬剤性肝炎では胆汁栓がみられる。
E. 肝硬変では偽小葉の形成がみられる。


正解:CDE

解説:

ウイルス性肝炎はウイルスによる肝細胞の変性壊死、およびそれに続く二次的反応としての炎症細胞浸潤であり、炎症細胞浸潤(リンパ球、形質細胞、マクロファージなど)は肝小葉より門脈域(グリソン鞘)に主としてみられる。原因ウイルスにより病理組織像は、急性肝炎ではA、B、C型で特異的な差は指摘しえないが、急性肝炎ではA型で門脈域の炎症がより強く、B型では小葉内の巣状壊死が強く、C型では小葉間胆管の障害が目立つ傾向がある。慢性肝炎ではC型では門脈域でのリンパ濾胞の形成や胆管の障害がみられることがあるが、B型では稀である。

ウイルス性肝炎ではリンパ球、形質細胞、マクロファージなどの炎症細胞浸潤が特徴です。よってAは×。

うっ血性肝硬変congestive cirrhosisはうっ血性心不全、特に右心不全による慢性うっ血により、中心静脈を中心として線維化が進み、門脈域を取り囲むような中心静脈相互を結ぶ線維帯や(小葉の逆転)、中心静脈と門脈域を結ぶ線維帯が形成される。小葉の改築は起こるものの再生結節の形成は明らかでなく、狭義には肝硬変というより肝線維症の範疇にある。
新生児肝炎neonatal hepatitisは生後間もなく黄疸が始まり、臨床的、および病理組織学的にも先天性胆道閉鎖症と鑑別困難なことも少なくない。肝炎ウイルス、サイトメガロウイルスヘルペスウイルスなどの全身感染症や全身性代謝疾患などの原因の明らかなもの以外を呼ぶ。組織学的には多数の肝細胞の融合による、多核巨細胞の出現が特徴的であり、巨細胞性肝炎とも呼ばれる。

うっ血性肝硬変では門脈域を取り囲むような中心静脈相互を結ぶ線維帯(小葉の逆転)が特徴です。多核巨細胞は新生児肝炎でみられる特徴ですね。よってBは×。

非アルコール性脂肪性肝疾患non-alcoholic fatty liver disease(NAFLD)は非飲酒者に生じるアルコール性肝障害に類似した脂肪肝、脂肪性肝炎、肝線維症、肝硬変などの病態を示す1つの疾患概念である。発症要因としては肥満、糖尿病、脂質異常症などの関連から栄養の過剰摂取が重要であり、その際生じるインスリン抵抗性、肝脂肪変性、酸化ストレスなどが発症に関与していると考えられている。NAFLDは、病理組織学的に肝細胞の脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝simple steatosisと脂肪沈着に加え壊死炎症反応や線維化を伴う非アルコール性脂肪性肝炎non-alcoholic steatohepatitis(NASH)に大きく分かれる。NASHの診断には、①中心静脈周囲の大脂肪性脂肪沈着、②小葉内のリンパ球・単球・好中球浸潤などの炎症細胞浸潤、③肝細胞の風船様変性の3項目が重要であり、その他、脂肪肉芽腫やマロリー小体形成、肝細胞周囲線維化などもみられる。また、病初期には、中心静脈周囲の線維化が中心であるが、病変の進行とともに、門脈域の線維化、架橋形成を伴う線維化が出現し、終末的には肝硬変に至る。

よってCは○。

薬物性肝障害drug-induced liver injuryは、すべての個体に生じる中毒性intrinsic toxicityと、アルコール性あるいは過敏性の体質や薬物代謝異常体質を有する特性の個体のみ生じる個体特異性host idiosyncrasyに大別される。薬物肝障害は、その組織像から肝細胞障害型(壊死炎症型)、胆汁うっ滞型、脂肪沈着型、血管障害型、腫瘍形成型、その他の分類できる。薬物性肝障害の診断には、臨床情報が重要である。胆汁うっ滞型は拡張した毛細胆管に胆汁栓を認め、肝細胞内にも胆汁色素がみられることがある。胆汁うっ滞型には炎症を伴わない純うっ滞型と炎症を伴う混合型に分けられる。純うっ滞型は、経口避妊薬やタンパク同化ホルモンで生じ、混合型は、クロルプロマジンやエリスロマイシンなどで生じる。慢性の胆汁うっ滞では、胆管の減少や消失を来たしPBC類似の組織像を示す。

よってDは○。

肝硬変liver cirrhosisは慢性肝病変の終局像といえるものである。病理形態的には、肉眼的にびまん性に結節形成があり、組織学的には、肝細胞の壊死、再生の繰り返しによる肝全体にわたる線維化の進行の結果、線維性の隔壁で囲まれた種々の大きさの再生結節(偽小葉)の形成(小葉の改変)で特徴づけられる。わが国の肝硬変の多くは、C型あるいはB型肝炎ウイルスによるとみなされる。

よってEは○。



5. 胆汁細胞診について正しいものはどれですか。(3)
A. 胆石では反応性の異型細胞が出現する。
B. 良性胆管上皮は腺癌と比較して結合性が強い。
C. 平面的な集団は良性病変である。
D. 硬化性胆管炎では背景に好中球が多い。
E. 再生上皮では明瞭な核小体を認める。


正解:ABE

解説:

膵臓では慢性膵炎、胆嚢・胆道系では胆嚢炎、胆石症などの際に異型細胞が出現する。これらは、ときに癌細胞との鑑別を要する。その場合、以下の所見が鑑別点となる。
1)シート状細胞集塊で出現または重積性がみられても配列は規則正しい。
2)細胞密度は疎。
3)細胞の極性が保たれている。
4)細胞集塊辺縁の細胞の細胞質が保たれている。
5)個々の細胞の細胞質は保たれている。
6)核の染まりに不同がない。
7)核形に不整がない。
8)核縁が均等な厚さで、薄い。
9)クロマチンは疎で均等な分布を示す。

よってAとBは○。
平面的な集団でも良性病変とは限らないです。異型の少ない腺癌もありますからね。よってCは×。

原発性硬化性胆管炎primary sclerosing cholangitis(PSC)は肝外および肝内胆管の線維性肥厚、狭窄を来たし、進行すると慢性的胆汁うっ滞により胆汁性肝硬変となり肝不全に至る原因不明の稀な疾患である。わが国では30%前後だが欧米では約70%の症例に潰瘍性大腸炎を併発する。抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体が陽性の症例の存在から自己免疫疾患の可能性が示唆されている。肝外から肝内に至る胆管壁の線維性肥厚とともに、壁内にはリンパ球、形質細胞を主体とする炎症細胞浸潤をみる。進行すると胆管壁周囲の線維化が進み、内腔の閉塞、肝管の破壊が起こり、終局的には完全に線維によって置換さて瘢痕化する。全身倦怠感、黄疸、皮膚掻痒感、肝脾腫などを来たすことが多いが、無症状のこともある。pANCAが診断マーカーとして注目されている。類似病変に自己免疫性膵炎を合併する硬化性胆管炎があるが、この疾患では、組織学的にIgG4陽性の形質細胞浸潤がみられ、ステロイド治療に反応性が良好であることが相違点である。PSCの5~10 %に胆管癌を合併しており、進行癌が多く予後も不良であることから胆管癌のリスクファクターとして厳重な経過観察が必要である。胆管結石などによる慢性炎症と胆管癌の関連性を明確にした報告は無く、遺伝子学的研究もなされているものの明確な結論は得られていない。

硬化性胆管炎では背景にリンパ球や形質細胞が多いです。よってDは×。ほかに硬化性胆管炎で重要なのは胆管癌のリスクファクターというところでしょうか。
再生上皮は核小体が明瞭ですね。よってEは○。



6. 胆汁細胞診について正しいものはどれですか。(3)
A. 胆道癌は分化型腺癌の頻度が多い。
B. 豊富な粘液は粘液産生腫瘍の存在を疑う。
C. 扁平上皮癌は他臓器と比較して診断が困難である。
D. 高分化腺癌は低分化腺癌より癌細胞が出現しやすい。
E. 高分化腺癌のN/C比は低分化腺癌より小さい。


正解:ABE

解説:

胆道癌は肝外胆道系に発生する癌腫と定義され、発生部位により肝外胆管癌、胆嚢癌および乳頭部癌に大別される。わが国での胆道癌登録症例の検討では、約9割が管状腺癌、および乳頭腺癌であり、アメリカにおいても同様である。その他の組織型はまれといえる。

胆道癌は乳頭腺癌が10%程度、高分化型管状腺癌が35%程度、中分化型管状腺癌が35%程度なので、頻度が多いのか少ないのかといわれると微妙ですが、おおむね分化のよい腫瘍が発生するみたいです。よってAは○。
Bの選択肢に関する文献は探せませんでした。よってBは△。

胆嚢、肝外胆管は腺癌adenocarcinomaが多く、通常の腺癌の細胞形態を示す。そのほかに、腺扁平上皮癌adenosquamous carcinomaが、比較的多く発生する。また、扁平上皮癌squamous cell carcinomaが単独で出現した場合、角化傾向が著明な細胞(層状構造やオタマジャクシ型、線維型などの奇怪細胞)がみられ、その診断は比較的容易である。

よってCは×。
DとEの選択肢に関する文献は探せませんでした。でも低分化になるほど癌細胞は異型が強くなります。低分化腺癌のほうが結合性も弱いので脆く剥離しやすいことと低分化腺癌のほうが核異型が強くなることを踏まえるとDは×、Eは○と考えます。



7. 膵のsolid-pseudopapillary neoplasmについて正しいのはどれですか。(3)
A. 高分化内分泌腫瘍に属する。
B. 高齢の男性に好発する。
C. 充実部分や出血壊死性の嚢胞部分からなる。
D. 小型~中型の円形好酸性細胞からなる。
E. ミトコンドリアが豊富である。


正解:CDE

解説:

膵solid-pseudopapillary neoplasmは組織学的に異型性に乏しい多角型の上皮性腫瘍細胞が、びまん性にあるいは充実性に増殖し、毛細血管周囲に偽乳頭状構造を形成する。腫瘍細胞の細胞質内や間質にPAS染色陽性顆粒が散見される。また泡沫状の腫瘍細胞が集簇し、コレステリン肉芽腫の形成をみることもある。免疫組織化学的に、腫瘍細胞はα1-アンチトリプシン陽性を示すが、各種膵腫瘍マーカーや膵酵素類はいずれも証明されない。膵島腫瘍との鑑別が問題となるが、いずれの膵島ホルモンも証明されず、これを否定できる。電顕的には上皮性の性格が確認でき、一部腫瘍細胞にチモーゲン様顆粒を認めることもある。

膵solid-pseudopapillary neoplasmは膵島ホルモンは全て陰性となります。よってAは×。

95%以上は女性例で、その大多数は10数歳~30代に発症している。術後経過はきわめて良好で、まず再発をみることは少ない。男性例や悪性例も稀に認められるが、その頻度は数%以下である。高齢者や石灰化を伴う症例に悪性例を認める傾向がある。

膵solid-pseudopapillary neoplasmは若年女性に発症します。よってBは×。

膵のいずれの部分からも発生するが、頭部に最も多い。10cm前後の大型の結節型病変として認められ、中心部は変性・壊死や出血を伴い、偽嚢胞状を呈する。厚い結合織の被膜で囲まれ、多くの病変は膵組織と比較的明瞭に区別される。被膜下の腫瘍周辺部に本来の充実性の腫瘍成分がわずかに残存することが多い。中心部の偽嚢胞部分は変性・壊死に出血が加わり、暗赤褐色の泥状物が充満する。また被膜下に不規則な異所性石灰化や骨化を伴うこともある。

よってCは○。

腫瘍細胞は均一な小型類円形核で、顆粒状の核クロマチン、1~2個の小型核小体、核の長軸方向の核溝、背景に硝子様物質を認める。

よってDは○。
膵solid-pseudopapillary neoplasmは電顕的にミトコンドリアが証明されます。よってEは○。



8. EUS-FNA(Endoscopic ultrasound guided-fine needle aspiration)について正しいものはどれですか。(3)
A. 内分泌腫瘍の診断に有用である。
B. 腫瘤形成性膵炎と膵癌の鑑別に有用である。
C. 経皮的穿刺と比較して病変から採取しやすい。
D. 膵上皮内癌の診断に有用である。
E. 悪性の膵嚢胞性病変に有用である。


正解:ABC

解説:

EUS-FNAの適応病変は、①膵・膵周囲腫瘤性病変、②消化管粘膜下腫瘍、③消化管周囲のリンパ節、④後縦隔腫瘤性病変、⑤EUSでしか描出されない少量の腹水や胸水、⑥消化管の上皮性腫瘍でありながら粘膜下の要素が強く通常の内視鏡下生検では診断が困難な病変、⑧副腎病変(褐色細胞腫に注意)、⑨EUSで描出される肝左葉の占拠性病変、⑩経大腸的な観察が可能な骨盤内腫瘤、などである。適応疾患に関しては本手技の普及と相まって拡大の傾向にある。また、良性と診断されても治療方針の決定のためにさらに質的診断、たとえば自己免疫性膵炎や結核など病因を明らかにする必要がある場合に適用がある、悪性と診断されても、さらに治療法決定のために組織型、たとえば膵管癌、膵腺房細胞癌や内分泌癌などの特定が必要な場合にも本手技は適応になる。

よってAとBは○。
Cの選択肢に関する文献は探せませんでしたが、EUS-FNAは超音波内視鏡下穿刺吸引法の略で、リアルタイムに得られる超音波画像をみながら細径針(19~25G)で病変組織を安全に採取することが可能な方法です。経皮的穿刺と比較すると病変さえ上手く描出できれば明らかに採取はしやすいです。よってCは○と考えます。
Dの選択肢に関する文献は探せませんでしたが、EUS-FNAの適応病変は腫瘤性病変です。膵上皮内癌ともなると病変も大きくはないですし、細胞採取自体も困難だと思います。よってDは×と考えます。

一方、禁忌としては、EUSにて病変が明瞭に描出できない場合、穿刺経路上に癌や血管が介在する場合、EUS-FNAにより強く合併症の発症が危惧される場合、などである。癌の播種の可能性のある病変とは膵体尾部に位置する膵管内乳頭腫や粘液性嚢胞腫瘍であり、嚢胞内の圧の関係と経胃的穿刺によりseedingのリスクが高いと考えられている。

EUS-FNAでは嚢胞性病変は採取の際に腫瘍細胞が播種してしまう危険があるので禁忌とされています。よってEは×。



9. 自己免疫性膵炎について正しいものはどれですか。(3)
A. 若年者に多い。
B. 画像診断で膵癌との鑑別は容易である。
C. 主膵管の狭細像を認める。
D. リンパ球、形質細細胞浸潤が目立つ。
E. 高IgG4血症を伴うことが多い。


正解:CDE

解説:

自己免疫性膵炎の有病患者数は人口100万人に対し7人程度とされる。発症のピークは60代で大半が40代後半以降に発症し、男女比は約3:1である。組織学的には膵実質は萎縮・脱落し、限局性あるいはびまん性線維化がみられる。またリンパ球や形質細胞を主体とする著明な細胞浸潤やリンパ濾胞の形成を伴っておりリンパ形質細胞性硬化性膵炎lymphoplasmacytic sclerosing pancrearirisと称せられる。浸潤リンパ球はT細胞が優位で、多数の形質細胞はIgG4に陽性反応を示す。炎症反応は膵管周囲により高度で膵管周囲炎としての所見を示しており、導管抗原に対する免疫応答が示唆される。また閉塞性静脈炎様の所見もしばしば認められる。また膵以外の臓器にも同様な病変をしばしば合併する。

よってCとDとEは○。
自己免疫性膵炎は40代以降で発症しやすいです。よってAは×。

アルコール性膵炎や自己免疫性膵炎は過剰な炎症反応の結果、画像診断上あるいは肉眼的に腫瘤性病変を形成することがある。このような病変は腫瘤形成性膵炎tumor-forming pancreatitisと総称される。膵頭部に発症すると閉塞性黄疸など閉塞症状を伴い、膵頭部癌との鑑別が問題となる。前者は石灰化(膵石)を伴うことが多く、後者はときに多発性病変を形成することがある。

自己免疫性膵炎は腫瘤性病変を形成して膵頭部に発生すると膵頭部癌との鑑別が問題になります。よってBは×。



10. 多形腺腫について正しいものはどれですか。(2)
A. 耳下腺に好発する。
B. 高齢者に好発する。
C. 悪性化例が多い。
D. 発育速度が早い。
E. 再発することがある。


正解:AE

解説:

多形腺腫pleomorphic adenomaは唾液腺腫瘍の中で最も高頻度にみられ、好発年齢は30~50歳である。顎下腺および小唾液腺(口蓋腺、口唇腺)に好発する。発育は緩慢で周囲組織との境界は明瞭である。しかし腫瘍摘出が不十分であれば再発することがある。また、まれに癌化(多形腺腫由来癌)することもある。

よってAとEは○、BとCとDは×。



11. 筋上皮細胞のみられる唾液腺腫瘍について正しいものはどれですか。(2)
A. 基底細胞腺腫
B. 多形腺腫
C. ワルチン腫瘍
D. オンコサイトーマ
E. 悪性リンパ腫


正解:AB

解説:

正常の唾液腺を構成する上皮細胞には、大きく分けて管腔を形成する細胞(luminal cell)と管腔を形成しない細胞 (non-luminal cell)があり、前者には腺房細胞と導管上皮細胞、後者には筋上皮細胞と基底細胞がある。唾液腺の上皮性腫瘍はこの2種類の細胞のどちらか一つからなるものと両方が混在するものとに3つに分けることができる。
Type A(管腔細胞型)
・ワルチン腫瘍
・好酸性細胞腫(オンコサイトーマ)
・腺房細胞癌
・粘表皮癌
・唾液腺導管癌
Type B(管腔細胞型+非管腔細胞型)
・多形腺腫  
・基底細胞腺腫
・上皮筋上皮癌
・基底細胞腺癌
・腺様嚢胞癌
Type C(非管腔細胞型)
・筋上皮腫
・悪性筋上皮腫

よってAとBは○、CとDとEは×。



12. 食道について正しいものはどれですか。(2)
A. 胸部食道には漿膜がある。
B. 食道静脈瘤は上部食道に好発する。
C. 真菌性食道炎の原因菌はカンジダが多い。
D. バレット食道は扁平上皮の円柱上皮化生である。
E. 早期食道癌は粘膜下層に浸潤するものを含む。


正解:CD

解説:

食道には横隔膜下の一部を除いて漿膜がない。筋層を包む外膜は縦隔の一部に相当する疎な結合組織であり、血管、リンパ管および神経が走行している。このため、感染の波及や食道癌の浸潤が起こりやすい。

食道は横隔膜より下部では漿膜がありますが、横隔膜より上部では漿膜はありません。よってAは×。

食道静脈瘤esophageal varixは肝硬変や門脈血栓症などにより門脈圧亢進症が生じると、門脈血流は胃冠状静脈、短胃静脈、食道静脈さらには奇静脈を経由する側副路を形成する。このため、静脈内腔が著しく拡張し、粘膜上皮を圧迫して破裂することがある。食道下部に発生する事が多く、拡張した静脈はつる状となって縦走する。食道静脈瘤破裂による大量出血は肝硬変患者の重要な合併症であり、死因ともなる。

食道の肉眼的区分では頸部食道、胸部食道、腹部食道に大きく分類され、さらに胸部食道は上部胸部食道、中部胸部食道、下部胸部食道に分類されます。食道静脈瘤は下部食道に発生することが多いです。よってBは×。
真菌性食道炎ではカンジダによる食道炎が多いです。よってCは○。

バレット食道は食道下部粘膜が、全周性かつ胃から連続性に少なくとも3cm以上が腺上皮により置換された状態である。3cm未満や非全周囲の病変はshort segment Barrett esophagus(SSBE)と呼ばれる。構成する細胞は萎縮した胃底腺および噴門部および腸上皮化生腺管である。上皮はしばしば再生性変化を示す。異形成dysplasiaと呼ばれる腺腫や、腺癌が発生することがあり、その頻度はバレット食道患者の約10%である。なお、バレット食道腺癌は食道癌全体の約4%を占めている。

よってDは○。

早期食道癌は、原発巣の壁深達度が粘膜層にとどまり、リンパ節転移有無を問わない、と定義されている。粘膜筋板を越えない癌と換言できる。以前は胃癌と同様、粘膜下層に浸潤する癌(表在癌)を包括していたが、粘膜下浸潤癌の5年生存率は70%前後と不良であった。現行の定義では、5年生存率が早期胃癌と同様、90%以上となる。内視鏡切除術の適応病変である。なお、早期食道癌は多発し、その頻度は10~30%と報告されている。

早期食道癌は、原発巣の壁深達度が粘膜層にとどまり、リンパ節転移有無を問わないと定義されています。よってEは×。食道の早期癌と表在癌の定義はゴチャゴチャになりやすいので注意です。



13. 虫垂カルチノイド腫瘍について正しいものはどれですか。(2)
A. 大腸発生では最も頻度が高い。
B. 腫瘍細胞は好銀性(argyrophil)が多い。
C. 粘膜下腫瘍の肉眼形態を示す。
D. 杯細胞型の壁内浸潤様式は低分化腺癌に類似する。
E. 典型的カルチノイドではセロトニン分泌が少ない。


正解:BC

解説:

カルチノイドの好発部位は肺・気管支19.8%、直腸15.0%、空腸・回腸12.0%、胃11.4%、虫垂9.6%、十二指腸8.3%である。

カルチノイドは大腸発生では直腸が最も頻度が高いですね。よってAは×。

発生学的に消化管は原腸から発生分化し、食道、胃、十二指腸口側は前腸foregut、十二指腸肛門側、空・回腸、右半結腸は中腸midgut、左半結腸と直腸は後腸hindgut由来である。なお、呼吸器も前腸から発生するため、食道と気管を合わせた奇形の組織発生が理解される。消化管カルチノイドは以下のような特徴に分類される。

前腸型 中腸型 後腸型
銀親和性
好銀性
セロトニン産生
尿中5-HIAA ↑↑ ↑↑

よってBは○。
虫垂は中腸から発生します。表をみるとセロトニン産生がありますね。よってEは×。

カルチノイド腫瘍carcinoid tumorの起源は粘膜深層の腺底部に存在する銀親和性細胞に由来する。したがって腫瘍細胞は、早い時期に粘膜筋板間隙を通って粘膜下層に達し、同部で増殖するため、肉眼的に粘膜下腫瘍の形態を呈する。

よってCは○。

虫垂杯細胞カルチノイドは組織学的特徴としては、①弱酸性の細胞質を持つ細胞と杯細胞ないしは印環細胞類似の細胞が小胞巣状、腺房状、索状に発育する、②腫瘍は粘膜深層から粘膜下層に多く存在し粘膜上皮に悪性所見がない、③全層性に進展し神経浸潤の傾向が強くしばしば脈管侵襲がみられる、④粘液産生細胞、好銀性細胞、銀還元性細胞、Paneth細胞、粘液と銀顆粒が併存する細胞などがみられ、異型性、核分裂像はほとんどみられないとされている。

一般的に低分化腺癌は腺管形成がないか、あってもわずかとされています。虫垂杯細胞カルチノイドは腫瘍細胞が小胞巣状、腺房状、索状に発育するため、低分化腺癌の浸潤様式とは類似していません。よってDは×。



14. 肝臓の細抱診について正しいものはどれですか。(2)
A. 赤痢アメーバの同定にはGiemsa染色が有用である。
B. 高度異型結節と高分化型肝細胞癌の鑑別は容易である。
C. 高分化型肝細胞癌は小型、N/C比増大を呈する。
D. 中分化型肝細胞癌は好酸性顆粒状細胞質を有する。
E. 低分化型肝細胞癌は細胞質の脂肪変性が目立つ。


正解:CD

解説:

赤痢アメーバEntamoeba histolyticaの染色法には従来よりハイデンハイン鉄ヘマトキシリン染色が用いられ、Entamoebaの分類に重要な核膜上の染色顆粒の状態、カリオソームの染色状態など、赤痢アメーバの同定基準はすべて鉄ヘマトキシリン染色によって記載されている。

赤痢アメーバの同定にはハイデンハイン鉄ヘマトキシリン染色という方法が用いられるそうです。よってAは×。

高分化型肝細胞癌では細胞異型は軽度であり、腺腫様過形成、異型腺腫様過形成や肝硬変の再生結節などとの鑑別が困難なことがある。

高分化型肝細胞癌は異型が軽度なので過形成病変などとの鑑別が難しいです。よってBは×。

N/C比の増大と核の濃染性、クロマチン分布の不均一性は、高分化肝細胞癌有意に多く、肝硬変症との間に大きな差がみられたが、核の大きさ、細胞の大きさ、これらの大小不同の程度、核小体の大きさと個数核クロマチンの性状、核縁の厚さ、核形不整、胞体の顆粒性と空胞、胆汁色素、核内封入体、2核細胞の頻度などには多少の差が認められたにすぎなかったという報告がある。

よってCは○。

高分化型は正常肝細胞に類似し細胞異型が軽度なため、良性病変、特に肝硬変との鑑別が困難な場合がある。細胞質に好酸性顆粒やマロリーMallory body(PAS染色陰性)、脂肪変性がみられることが多い。中分化型は高分化型と比較して核腫大やクロマチンの濃染傾向が強くなるが、N/C比はあまり高くない。細胞集塊内に偽腺管様配列や個々の細胞に胆汁色素や核内細胞質封入体がみられることが多い。低分化型は中分化型より核異型が強く、巨細胞、多核細胞が混じる。

よってDは○。
脂肪変性は高分化型肝細胞癌でよくみられます。よってEは×。



15. 早期肝細胞癌について正しいものはどれですか。(2)
A. 偽腺管が特徴的である。
B. 境界明瞭であることが多い。
C. 結節内に門脈域成分が含まれる。
D. 小型化した癌細胞の密度は周囲肝組織の2倍以上である。
E. 脂肪化の有無は異型結節との鑑別に有用である。


正解:ACD

解説:正解が3つありますが、ACやADといった組み合わせがないのでCDが組み合わせとして正解と考えます。

原発性肝癌取扱い規約第5版では早期肝細胞癌を以下の様に定義しているが最新の国際基準と同様の内容である。「細胞密度の増大に加え、腺房様あるいは偽腺管構造、索状配列の断裂、不規則化などの構造異型が領域性をもってみられるもの、あるいは間質への浸潤を有するもので、細胞個々の異型は乏しいが、一般に細胞は小型化して、核胞体(N/C)比が増大する。細胞質では好酸性ないし好塩基性が増強する。通常、細胞密度の増大は周囲肝組織の約2倍以上である。しばしば脂肪化、淡明細胞化を伴う。癌細胞は膨張性に増殖するにいたっていないため、周囲肝組織との境界で癌細胞は隣接する肝細胞を置換するように増殖し、境界は不明瞭なことが多い。肉眼的には、小結節境界不明瞭型に相当する」

よってAとCとDは○。
早期肝細胞癌は小結節不明瞭型を呈します。よってBは×。
問題14の選択肢Cの解説をみると、高分化型肝細胞癌と肝硬変の胞体の顆粒性と空胞は多少の差しかみられなかったとあります。脂肪化自体は鑑別に指標になっているわけではないみたいですね。よってEは×。



16. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)について正しいものはどれですか。(2)
A. 上皮の異型度が高いほど粘液産生性は低くなる。
B. 異型上皮が非乳頭状増生を示すものは含まれない。
C. 分枝型の多くは粘液高産生性である。
D. 非浸潤型のものは上皮内癌(CIS)に分類される。
E. K-ras遺伝子変異がみられる。


正解:AE

解説:

膵管内乳頭粘液性腺腫 intraductal papillary-mucinous adenoma(IPMA)の増殖細胞は、多くの場合、粘液性であるが、非粘液性のもの、好酸性のもの(oncocytic type)もある。核は小型で均一であり、基底に位置している。異型の程度により、軽度異型、中等度異型、高度異型(境界領域)に分ける。一般に、異型が強くなると非粘液性となる。

よってAは○。

膵管内乳頭粘液性腫瘍 intraductal papillary-mucinous neoplasms(IPMNs)は粘液貯留による膵管拡張を特徴とする膵管上皮系腫瘍で従来、膵管内乳頭腫瘍intraductal papillary tumors と呼んでいたものと同一のものである。病変の主座が、主膵管にあるものは主膵管型、分枝にあるものは分枝型、両方にまたがるものは混合型とする。また、主膵管の拡張がめだつ場合は、粘液高産生性 with mucin-hypersecretion とし、主膵管の拡張が無いかあっても軽度の場合は、粘液非高産生性 without mucin-hypersecretion とする。したがって、多くの分枝型は後者となる。腫瘍自身の肉眼形態には、限局性隆起性(ポリポイド、扁平隆起性)のものが多いがびまん性平坦のものも存在する。組織学的には、高乳頭増殖 high-papillary growth、低乳頭増殖 low-papillary growth、完全平坦増殖 completely flat growth をしめすものなどがある。すなわち、疾患名として「乳頭」という名前が付いているが、組織学的には非乳頭増殖を示すものも含まれ得る。構成細胞は、粘液性あるいは非粘液性高円柱状であり、上皮の構造異型および細胞異型の程度により、腺腫あるいは腺癌に分類する。上皮内癌(CIS)とは、膵管拡張の程度・形状、上皮の増殖形態により鑑別する。

IPMNには完全平坦増殖を示すものもあります。よってBは×。
分枝型の多くは粘液非産生性です。よってCは×。

異型上皮および上皮内癌 atypical epithelium (AE) and carcinoma in situ(CIS)は膵管内に限局し、原則として膵管拡張が無いかあっても軽度の膵管上皮系病変である。膵管拡張の程度は、一般には径数mm (5mm)までとするが、病変部近位の狭窄により、病変部の一部が拡張した膵管に存在する場合もある。従って、本病変の診断は、異型病変の拡がりの状態(樹枝状進展など)から総合判断する必要がある。なお、組織学的には、上皮は低乳頭増殖low-papillary growth あるいは完全平坦増殖completely flat growth を示し、これらの変化は、とくに上皮内癌の診断には必須である。従って、上記のIPMN との鑑別は、第一に膵管拡張の程度・形状により、第二に組織学的増殖形態により行う。異型の程度により異型上皮および上皮内癌に分類する。

上皮内癌とIPMNは全く別物です。よってDは×。

本腫瘍は、同一病変内に腺腫と腺癌が混在して認められることも多く、両者が連続した病変(adenoma-carcinoma sequence)であることが示唆される。分子生物学的にも、腺腫の段階でK-ras遺伝子の点突然変異がすでに存在し、腺癌になるとさらに変異p53の出現が認められる事実からも、多段階的に癌化しに至る腫瘍であることが示唆される。高齢男性に好発し、慢性膵炎に類似した長い臨床経過を伴うことが多い。

よってEは○。



17. Helicobacter pyloriについて正しいものはどれですか。(2)
A. グラム陽性球菌である。
B. 生息条件が変わっても形態を変化させない。
C. 腸上皮化生の粘液中に多く存在する。
D. Giemsa染色は有用である。
E. MALTリンパ腫と関連性が高い。


正解:DE

解説:

Helicobacter piloriはグラム陰性のらせん状ないしS状細菌である。単極に数本の鞭毛があり、活発に運動する。微好気性条件で発育する。

ピロリ菌はグラム陰性のらせん状桿菌です。よってAは×。

自然環境においては動物の胃内だけで増殖可能であり、それ以外の場所では、生きたらせん菌の形では長時間生残することはできない。しかし、患者の胃生検組織あるいは糞便中からcoccoid formと呼ばれる球菌様の形態に変化したものが分離されることがある。

ピロリ菌は生息に不利な条件下では球菌様の形態に変化するそうです。よってBは×。

Helicobacter pylori感染症は萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、MALT型リンパ腫、胃癌の原因となり、40歳以上の日本人の7割が保菌者といわれている。H.pyloriにはウレアーゼ活性があり、胃液中の尿素アンモニアに変えることによって胃酸を中和するため胃液中でも死滅しない。菌体は胃表層上皮ないしは陰窩の粘液層にみられ、一般に好中球を伴う高度の炎症細胞浸潤を伴っている。菌はHE染色でも観察可能であるが、同定にはギムザ染色Giemsa stainやワルチン・スターリー染色Warthin-Starry stain、抗H.pylori抗体を用いた免疫染色が行われる。

よってDとEは○。
ピロリ菌は胃表層上皮ないしは陰窩の粘液層にみられます。よってCは×。



18. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の細胞所見で正しいものを1つ選びなさい。(1)
1. 扁平上皮化生
2. 背景に多数のリンパ球
3. チモーゲン顆粒
4. 基底膜様物質
5. 乳頭状集塊


正解:5

解説:IPMNでは名の通り乳頭状集塊が出現します。よって5は○。



19. 口腔内病変について正しいものを1つ選びなさい。(1)
1. 白板症は上皮内癌である。
2. 口腔上皮性異形成はヨードで柴色される。
3. 口腔上皮内腫瘍ではKi-67/MIB-1染色が全層で陽性になる。
4. 早期癌ではTzanck細胞が見られる。
5. 舌癌の好発部位は舌縁部である、


正解:5

解説:

WHO では、臨床的な前癌病変に対応する組織学的分類として、
1)扁平上皮性異形成 Squamous epithelial dysplasia
2)扁平上皮内癌 Squamous cell carcinoma、in-situ
を挙げ、前者を「上皮内癌ほどではない細胞異型、および正常な上皮の成熟と層状配列の消失を特徴とする重層扁平上皮の前癌病変」、後者を「扁平上皮全層あるいはほぼ全層が癌の細胞的特徴をもつが、間質への浸潤を示さない病変」と定義している。病理組織学的なdysplasia の診断基準として13 項目の因子を挙げ、それらの変化が著明で項目数が多いほど異形成の程度は高度となる。臨床的な舌前癌病変である白板症、紅板症に対しては、このdysplasiaの有無およびその程度(mild、 moderate、severe)を病理診断として判定するとしている。しかし、口腔粘膜ではsevere dysplasia とCIS の区別は困難で、実際上無意味であるとの記載もある。従って、WHO 分類によるTis 癌は、「扁平上皮全層あるいはほぼ全層が癌の細胞的特徴をもつが、間質への浸潤を示さないCIS 及びsevere dysplasia」と考えられる。

白板症や紅板症は上皮内癌ほどではない細胞異型、および正常な上皮の成熟と層状配列の消失を特徴とする重層扁平上皮の前癌病変と定義されています。よって1は×。

舌癌に隣接する粘膜上皮には、扁平上皮内腫瘍(SIN)やdysplasia が連続して認められることが多い。これらの病変を周囲粘膜と臨床的に識別するためには、ヨード生体染色法が有用である。ヨード生体染色により、扁平上皮内腫瘍(SIN)やdysplasia は不染域として明瞭に認められる。しかし、早期浸潤癌や反応性異型病変も同様な不染域となることに留意しなくてはならない。ヨード不染域をさらに細分類する方法を検討する必要があるが、現状においては、癌に連続する不染域は可及的に切除することが望ましい。

扁平上皮内腫瘍(SIN)や異形成はヨード染色で不染域となります。よって2は×。

Ki-67/MIB1 免疫染色による分子病理学的診断基準を示す。
a)基底細胞に核小体明瞭な大型核を有する陽性像が認められる。
b)傍基底細胞、有棘細胞に多層化した陽性像が認められる。
c)上記所見が一定の局面をもって存在する。

扁平上皮内腫瘍(Tis癌)ではKi-67/MIB1染色で基底膜側の上皮が陽性を示します。よって3は×。

尋常性天疱瘡pemphigus vulgarisは自己免疫性水疱性疾患で、50歳前後の成人の皮膚、粘膜上皮層に大小の水疱形成をみる。水疱部は破れ、充血性びらんを生じ、非水疱部は剥離しやすい(Nikolsky現象)。扁平上皮傍基底細胞の中には、大型化し核小体が明瞭化したTzanck細胞が出現する。全身性に拡がると予後不良となる。自己抗体としてデスモゾーム構成タンパクであるデスモグレインに対する抗体が検出される。組織像の特徴は粘膜上皮細胞間水腫および棘細胞融解acantholysisで、基底膜に異常はない(類天疱瘡との鑑別点)。

Tzanck細胞は尋常性天疱瘡でみられます。よって4は×。
舌癌の好発部位は舌の口側と舌縁です。よって5は○。



20. 唾液腺の細胞診について誤っているものを1つ選びなさい。(1)
l. 慢性唾液腺炎ではリンパ球、形質細胞や導管上皮細胞がみられる。
2. ワルチン腫瘍では好酸性上皮細胞集塊がみられる。
3. 多形腺腫ではメタクロマジーを示す粘液腫様物質がみられる。
4. 腺様嚢胞癌の粘液球はalcian blue染色が陰性である。
5. 粘表皮癌では扁平上皮様細胞と粘液産生性細胞がみられる。


正解:4

解説:

慢性唾液腺炎chronic sialadenitisは唾石による導管閉塞、放射線治療などにより唾液腺が腫脹、しばしば痛みを伴う。多数の成熟リンパ球、形質細胞および線維芽細胞を背景に腺管形成を示す導管細胞をみる。導管細胞はN/C比が低く異型は乏しいが、時に細胞質が広く厚く変化してみえることがある。腺房細胞の出現は比較的乏しい。

よって1は○。

ワルチン腫瘍warthin tumorは耳下腺に好発し、小唾液腺が発生するのはまれである。10数%は両側性で、片側性でも多発する傾向にある。嚢胞を形成し、穿針にて泥状分泌物を吸引することが多い。その組織像は、二層性配列を示す上皮細胞とリンパ組織からなる。細胞像は成熟リンパ球を背景にオンコサイト(膨大細胞)がみられる。膨大細胞はシート状集塊ないし散在性に出現する。細胞質は豊富で好酸性の顆粒状物質を含む。核は小型類円形で、N/C比は低い。時に、壊死性や炎症性背景がみられ、まれに扁平上皮化生細胞、コレステリン結晶などをみる。

よって2は○。

多形腺腫pleomorphic adenomaは唾液腺腫瘍の中で最も高頻度にみられ、好発年齢は30~50歳である。顎下腺および小唾液腺(口蓋腺、口唇腺)に好発する。発育は緩慢で周囲組織との境界は明瞭である。しかし腫瘍摘出が不十分であれば再発することがある。また、まれに癌化(多形腺腫由来癌)することもある。背景に粘液腫様物質(May-Giemsa染色でmetachromasiaを呈し赤紫色)を認め、物質内および周囲に短紡錘形から濃染核の細胞をみる。また、周囲に形質細胞様細胞(筋上皮細胞由来)を散見し、時に腺細胞、多核細胞、扁平上皮化生細胞および硝子様物質などをみる。

よって3は○。

腺様嚢胞癌adenoid cystic carcinomaは、腫瘍細胞は立体的嚢胞状集塊として出現する。集塊内の腫瘍細胞は篩状構造を模倣する配列を示し、その中に球状の粘液物質がみられる。この粘液物質は、PAS染色陽性アルシアンブルー強陽性を示す。個々の細胞は小型で、N/C比は極めて高く、核は濃染し、類円~短紡錘形を示す。

腺様嚢胞癌の粘液物質はアルシアンブルー陽性ですね。よって4は×。

粘表皮癌mucoepidermoid carcinomaは扁平上皮(化生)様細胞、粘液産生性細胞、両者の中間型細胞が出現し、それらの異型度が腫瘍の生物学的態度と比例する。つまり、核異型が軽度なものは悪性度が低く、核異型の高度なものは悪性度が高い。また、細胞診では中間型細胞の存在が診断のポイントとなる。中間型細胞は多辺形で厚い扁平上皮化生様の細胞質をもつが、細胞質に粘液をもつ。N/C比は低く、核は小型類円形である。

よって5は○。



なかなか難問揃いでしたね(笑) 全体的に難しそうにみえますが、出題される問題と選択肢は例年あまり変わらないと思います。過去問でみたことのある選択肢を確実に答えられれば、組み合わせで正解にたどり着けるものが多いので落ち着いて答えることが大切だと思います。